【コラム/細野真宏の試写室日記】「ファンタスティック・ビースト」最新作の出来と興行収入はどうなる?
2022年4月7日 08:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
いよいよ今週末4月8日(金)からハリウッド映画のブロックバスター「ファンタスティック・ビースト」シリーズの最新作「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」が、アメリカの4月15日に先立ち公開されます。
このシリーズは、2016年の第1弾「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」での興行収入が73.4億円、2018年の第2弾「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」での興行収入が65.7億円と、久しぶりにハリウッド映画で大きな興行収入が期待できそうな作品となっています。
ただ、新型コロナの影響や、メインキャストの悪役ゲラート・グリンデルバルドを演じたジョニー・デップの降板劇(私生活における裁判の影響)も重なり、第3弾となる本作の公開は約3年半ぶりとなってしまっています。
通常であれば、この「約3年半の空白期間」で熱が冷める事態は考慮しないといけないのですが、この間に配信での環境が整ってきたり、何より本作の場合は公開に合わせて、日テレ系列の「金曜ロードショー」で第1弾と第2弾の連続放送という強力な援護射撃があり、空白期間の影響はそれほど考慮しなくてよい面がありそうです。
では、本作の出来はどうなのかというと、確実に言えるのは、前作の第2弾「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」よりも面白いです。
基本的には第2弾の延長線上にある物語ですが、中盤辺りに(予告編にも出ている)笑いを誘うシーンが2か所ほどあったりと、第2弾よりは明るくなっていると思います。
別の言い方をすると、私は第2弾の出来は良くなかった、と思っています。
具体的には、かなり脚本を詰め込み過ぎている面がありました。しかも“黒い魔法使いの誕生”ということで内容がダークなこともあり、脚本がスムーズでなく映像と上手く相乗効果を上げられていないように思えました。
そのため、あくまで私の場合ですが、魔法をかけられるように途中で寝てしまうケースが何度もあったりして、なかなか第2弾を最初から最後まで見るのが難しかったです。
この原因は、おそらく「ハリー・ポッター」シリーズの原作者のJ・K・ローリングが、映像とダイレクトにリンクしないといけない「映画の脚本」を担当していたことが関係していると思っています。
それもあってか、第3弾となる本作ではJ・K・ローリングに加えて、映画「ハリー・ポッター」シリーズで7作品の脚本家を務めていたスティーブ・クローヴスが「共同脚本家」として参加することになったのは大きな変化だと思います。
監督は、「ハリー・ポッター」シリーズの最後の4作品でメガホンをとったデヴィッド・イェーツ。「ファンタスティック・ビースト」シリーズでは全て一人で手掛けています。
そこで、Rotten Tomatoesにおけるデヴィッド・イェーツ監督作品のデータと、日本における興行収入を見てみましょう。
批評家77%/一般層81%/興行収入94億円
批評家84%/一般層78%/興行収入80億円
批評家77%/一般層85%/興行収入68.6億円
批評家96%/一般層89%/興行収入96.7億円
批評家74%/一般層79%/興行収入73.4億円
批評家36%/一般層54%/興行収入65.7億円
批評家62%/一般層?%/興行収入?億円
このデータを見ると、「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」(2007年)から「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」 (2016年)までの評価は割と安定していることが分かります。
しかし、やはり「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」 (2018年)の評価は、批評家36%、一般層54%と、極端に低いことも分かります。
そのため、日本での「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」の興行収入が65.7億円と、それほど落ちなかったのは不思議な気もします。
以上のデータを基に、本作における興行収入について考えてみます。
そもそも「ファンタスティック・ビースト」シリーズは、5部作の予定となっています。
第1弾の「ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅」は“イントロ的な内容”で、登場人物の紹介と楽しい魔法の世界観や恋愛模様などを描くことができていて、これが本シリーズのピークのように思えます。
第2弾と第3弾は“対”になっているような面があり、第2弾の内容がしっかりと頭に入っていないと、第3弾は楽しめないと感じます。
そのため、私は、せっかく出来が良くなってきた本作で、興行面において第2弾の悪影響が出るのでは、と懸念しています。
しかも、第3弾となる本作も内容は、さらに深く凝っている面があり、これに本当についていけるのは、かなりコアなファンだと考えています。
このように考えると、「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」の興行収入は一気に40億円台にまで落ち込んでしまうリスクがあると思っていますが、現在はコロナ禍のため仕方のない面もあるかと思います。
ただ、これまで洋画不振の背景の一つにもあった「キャストの来日」問題が、大型のハリウッド映画ではコロナ禍で初めて本作から変わります!
主演のエディ・レッドメインが前作に続いて来日することが決定したので、これは通常より大きな脚光を浴びて象徴的な明るいニュースとなり、本来よりプラスに働きそうです。
最後に、本作を見る上でのポイントを紹介します。
まず、悪役ゲラート・グリンデルバルドを演じたジョニー・デップは一切出ずに、いきなり代役のマッツ・ミケルセンになっているので、これは事前に知っておきましょう。
グリンデルバルドが魔法で変身したりするシーンもなく、髪型等も合わせていないので、知らないと混乱が生じると思います。
また、前の2本の話は知っている前提で話が進むので、登場人物の名前や位置付けも事前に把握しておきましょう。
物語が「かく乱」を1つのテーマにしているからか、割と断片的な構成が目につき、途中は「ツッコミどころ」があったり、何をやっているのか分からなくなることもあるかと思います。
ただ、最後まで見ていれば、ラストシーンは第1弾の時のように良い終わり方をしているので、最終的には心地良いと感じると思われます。
このように、「ハリー・ポッター」シリーズと比べると、割と大人向けになっているので、どこまでファミリー層に広がるのか興味深いところです。
さらには、ジュード・ロウが演じるダンブルドア先生と不死鳥の関係など、「ハリー・ポッター」シリーズとの関連も出てくるので、すでに大人になった「ハリー・ポッター」ファンをどれだけ集客できるのかにも注目したいと思います。
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