【コラム/細野真宏の試写室日記】「モービウス」。果たしてスパイダーマンの敵か味方か?

2022年4月1日 16:00


「モービウス」
「モービウス」

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


本日から日米で同時公開される「モービウス」は、「ヴェノム」と同様に「ソニー・ピクチャーズのマーベル・ユニバース」における作品となっています。

この、少しややこしい表記の意味を理解するために、まずは以下の仕組みを把握しておきましょう。

時は、1990年代の後半。ソニーが「スパイダーマン」の映画化権を買うためにマーベルと交渉をしました。

ただ、今では信じられないような話ですが、その時のマーベルは1度倒産していて「マーベル・エンタテインメント」として再生したばかりでした。

そのため、ソニーはマーベルから、「スパイダーマン」だけでなく「アイアンマン」「マイティ・ソー」「ハルク」「キャプテン・アメリカ」「アントマン」「ブラックパンサー」など、ほぼすべてのマーベル作品映画化権を、わずか「トータル2500万ドルで販売したい」と提案されていたようです。

つまり、(1ドル=100円とすると)25億円でマーベル作品をソニーの手中に収めることができていたのです。

ところが、マーベルのアメコミにそこまで希望を見出せなかったのか、ソニーはマーベルの提案を断り、当初の目的の「スパイダーマン」関連の権利しか買い取らなかったのです。

「スパイダーマン」
「スパイダーマン」

その後マーベルは急成長し、2009年には「マーベル・エンタテインメント」はディズニーによって40億ドル(=4000億円)で買収され、ディズニー傘下となりました。

そして、このアベンジャーズ関連の作品(マーベル・シネマティック・ユニバース)は、2008年の「アイアンマン」から「キャプテン・マーベル」までの10年の間に「全世界興行収入で約2兆円」という「シリーズ映画で世界No.1」を記録するシリーズにまで成長。

今やマーベル作品は世界を席巻するまでの存在へと変貌しました。

極めつけが2019年の「アベンジャーズ エンドゲーム」で、こちらは世界興行収入で歴代1位を獲得するまでに成長したのです。

ソニーは「大きな魚」を逃がしてしまうことになりましたが、「スパイダーマン」関連の権利を買っていたのは幸いでした。

「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」
「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」

今年の「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」では全米で「アバター」の興行収入を抜き、歴代3位のヒットとなったりしています。

このような経緯があり、マーベル作品において、「ソニー・ピクチャーズのマーベル・ユニバース」という区分けが生まれたわけです。

「モービウス」
「モービウス」

さて、この流れからも分かるように、「モービウス」は「ヴェノム」と同様に「スパイダーマン」関連の作品となっています。

モービウス」という新キャラは、コウモリが大きなカギとなっている点で、現在、世界的にヒットしている「THE BATMAN ザ・バットマン」に似ている面があります。

ただ、「バットマン」と違うのは、「バットマン」はあくまでコスプレですが、「モービウス」の場合は、本当に人間から異形なものへと変身するのです。

「モービウス」
「モービウス」

主人公は、アカデミー賞受賞俳優であるジャレッド・レトが扮する天才医師マイケル・モービウス。幼いころから血液の難病を患い、同じ病に苦しみ、同じ病棟で兄弟のように育った親友マイロのため医師を志します。

ところが難病を克服できる治療法が見つからず、遂に自身を使って禁断の治療法を試すことに。

それは、未だに未知の病原体等を有する「コウモリ」の血清を投与するという危険すぎる治療法です。

結果的に、超高速飛行能力などの超人的な能力が備わる一方で、コウモリと同様に人の血を欲する「吸血鬼」となってしまうのでした。

このように、「命を救う医師」が、「命を奪う吸血鬼」になってしまう葛藤が「モービウス」というキャラクターの造形を深くしていると言えます。

「モービウス」
「モービウス」
「モービウス」
「モービウス」

また、そもそも親友マイロのための治療法でしたが、代償が大きすぎる治療法と分かったため、その後のマイロとの関係性がどうなるのかも見どころの1つです。

本作では、コウモリの特殊能力である超音波の反響を利用する「バットレーダー」で瞬時に周囲の状況を感知し、超高速で移動するなど、アクションシーンが割と凄いです。

特に超高速移動のアクションシーンでは、「マトリックス」の主人公ネオを彷彿させます。

果たして「モービウス」はスパイダーマンとどのように関わっていくのか?

ラスト辺りに、その大きなヒントが隠されています。

特に「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」で“マルチバース”(多元宇宙)が開いた後なので、「何が起こっても不思議ではない世界」というのも、より興味が出てきます。

「モービウス」
「モービウス」
「モービウス」
「モービウス」

さて、肝心の興行収入ですが、プラスな面としては、「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」の大ヒットでスパイダーマン関連の注目が集まっている点でしょう。

そして、同じく関連作の「ヴェノム」の続編「ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ」も、興行収入19億円超えの大ヒットをしています。

ただ、マイナスポイントは、キャラクター面があるかと思います。

ヴェノム」は面白キャラだったので人気が出たのは分かりますが、「モービウス」はキャラクターの雰囲気も「バットマン」と似てダークさをまとっているのは、ややマイナスに働きそうです。

しかも、初登場キャラクターで認知度が低いのもマイナスに作用する面としてあります。

そして良くも悪くも、「日米同時公開」となっている点です。

「日米同時公開」のプラス面は、ネットで海外のネタバレが回ってきにくい、ということがあります。一方でマイナス面としては、レビュー等の情報解禁の規制が異常に厳しくなることです。

本作では「公開日の4月1日(金)のAM0:01以降」。そのため、情報が行きわたりにくい点があるのです。

「アンチャーテッド」
「アンチャーテッド」

これに似た形態では、「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」で人気が大きくアップしたトム・ホランド主演、2022年2月18日からの日米同時公開作「アンチャーテッド」がありましたが、日本での興行収入は5億円超くらいで終わりそうです。

そのため「モービウス」については、興行収入5億円超えが最初の大きな焦点でしょう。あくまで初登場キャラクター作品なので洋画不振の現状では6億円超えができたら及第点と言えると思います

なお、エンドロール中にも映像は流れるので、最後まで席を立たずに見守りましょう!

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