吉岡里帆「ハケンアニメ!」で見えない炎を宿す 中村倫也との“直接対決”現場に密着

2022年3月25日 12:00


撮影現場に密着!
撮影現場に密着!

2021年6月19日、事前に共有されていた脚本を片手に、ある撮影現場へと向かっていた。さかのぼること数日前。脚本の内容に目を通した後、原作小説を読み込んでいた。そこから脚本を再読した際に、こんな思いが芽生えたことを覚えている。「脚本の段階で“既に面白い”」。だからこそ、撮影現場への訪問は、喜びでもあり、緊張を感じる瞬間でもあった。

作品のタイトルは「ハケンアニメ!」。直木賞作家・辻村深月氏の大人気小説を実写映画化作品だ。アニメ業界で“最も成功したアニメ”の称号「ハケン(覇権)」を手にするべく奮闘する人々を描く――いわゆる「お仕事映画」。主演の吉岡里帆が地方公務員からアニメ業界に飛び込み、監督として成長していく斎藤瞳役、中村倫也がスター監督・王子千晴役を演じ、柄本佑尾野真千子らが共演。「「水曜日が消えた」で長編映画デビューを果たした吉野耕平が監督を務めている。

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撮影地となったのは、茨城県のつくば国際会議場。原作では描かれない、映画オリジナルシーンの撮影が進行していた。会場の至るところに掲出された劇中アニメ「サウンドバック 奏の石」「運命戦線リデルライト」の宣伝素材が目を引く。大勢の聴衆が見守るなか、ステージに上がったのは吉岡と中村。瞳と王子が、それぞれ監督を務めた劇中アニメ「サウンドバック 奏の石」「運命戦線リデルライト」のプレゼンを行う――“直接対決”ともいえるシーンだ。

瞳にとって王子は、アニメ業界へ進むきっかけをくれた存在だ。そんな憧れとの対峙。並大抵の緊張ではないだろう。「表舞台に立つ」という不慣れなシチュエーションながら、懸命に作品の魅力を届ける瞳を、吉岡が体現していく。この“届ける”という行為は、作品の重要なポイントとなっている。

今回の現場取材では、吉岡が撮影の合間をぬって、インタビューに応じてくれた。アニメーション業界の裏側を描くという点について「表には出ない色々なドラマが部署ごとあるので、題材としてすごく面白いです。辻村さんが描かれた世界は、どれも生々しく、作品を生み出そうとする方々の熱量がとても高くて、胸が熱くなります」と語る。

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吉岡が初めてアニメ業界の人々と密に交流したのは、長井龍雪監督作「空の青さを知る人よ」の現場だ。その経験が「ハケンアニメ!」でも活きている。

「監督、プロデューサー、作画や脚本、音響監督を担当された方々とお話させていただく時間がたくさんありました。作品の完成を祝う場にも呼んでいただいたんですが、そこにほとんどの部署の方が集ったんです。一言ずつお話をする機会があったんですが、そこでの時間が自分にとって大きかったと思います。『あのカット、あのシーンの表情は、私が担当しています』と教えて下さる方もいて、その時のキラキラした表情を覚えています。アニメーションが完成するまでには、本当に多くの方が関わっている――この意識は、その瞬間に植え付けられた気がしています」

瞳という人物へのアプローチも、余念がない。「女性のアニメーション監督」という点で支えになったのは、「魔女見習いをさがして」でデビューを果たした鎌谷悠監督の存在だ。ペンタブの操作、コンテの描き方だけでなく、仕事をする際の心構えも学んだ。

「教えていただいたのは、強い意志と折れない心。自分がダメだと感じていることに対しては、嫌われる覚悟を持って臨まないといけないと仰っていたんです。だからこそ、斎藤瞳を演じるにあたり、何でもこなせる若手監督というよりも、葛藤しながら、ベテラン陣と向き合っていく。“心を鬼にする”ようなキャラクターになるといいなと思いました」

撮影風景に視点を戻そう。王子は監督作「運命戦線リデルライト」のプレゼンを行った後、イベント司会者からのぶしつけな質問に対して、劇中屈指の名文句を繰り出す。内に秘めた“熱”を、静かに、そしてよどみなく捲し立てていく中村。セリフを終えた瞬間、エキストラの拍手にまぎれて、思わず拍手を送りたくなってしまったことを記しておこう。セリフの内容は、非常に心に響くものだ。しかし、それをどのように発するのか。ここに実写化の意義、俳優としての使命がある。中村が王子という役を通じて伝えきった“熱”は、観客の心に必ず届くはずだ。

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その後、展開していくのは、瞳が王子への思いを打ち明けた後、“宣戦布告”をするという場面。「“ハケン”を取ります!」という瞳に対して、不敵な笑みを浮かべる王子。作り手としての矜持をかけて闘いを挑まんとする両者の姿を、「サウンドバック 奏の石」のプロデューサー・行城理(柄本)、「運命戦線リデルライト」のプロデューサー・有科香屋子(尾野)が会場の端で静かに見守る。まさにゴングが鳴った瞬間だ。その行く末への期待が否が応でも高まる。

吉岡は同日の撮影について「台本を読んでいても、物語が大きく熱を帯びるシーンですよね。普段の斎藤瞳は、結構ローな感じなんです。監督の演出にも関わっているのですが、感情があまり表に出ないようにしています。そこから尊敬する王子と対面した時に、大きな変化が生じるんです。実は、王子と直接対面するシーンはあまりないんです。だからこそ、他のシーンと質感が変わればいいなと思っていました」と振り返る。

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「斎藤瞳」という役どころは、吉岡がこれまで演じてきた人物とは少々テイストが異なるように思える。その点は、吉岡も自認していた。

「これまでは、一生懸命にやっているという表現を求められることが多いのですが、この作品の場合は、頑張っているけど、それが周囲に上手く伝わらないということを常に表現しています。沸々とした“見えない炎”を抱いているような……。最終的には、監督として作品(『サウンドバック 奏の石』)を引っ張っていくというところまで辿り着かないといけない。悩みながらでも成功に導いていくという役にはパワーとエネルギーが必要なんです」

また、アニメーション監督という役どころならではの「贅沢な悩み」も打ち明ける。そんな思いが生じたのは、声優陣との共演だ。「サウンドバック 奏の石」には、高野麻里佳梶裕貴潘めぐみ木野日菜速水奨、「運命戦線リデルライト」には高橋李依花澤香菜堀江由衣小林ゆう近藤玲奈兎丸七海大橋彩香が参加。特に、高野が演じる声優の群野葵は、瞳の“闘い”に大きく関わっていくことになる。

「嬉しい悲鳴みたいなものなんですが……。プロの声優さんに対して『(芝居のニュアンスが)違う』と言わなければならない場面があるんです。こんなにも心苦しいシーンってあるのかと……。私個人の目線でいえば、毎回『え! すごい!』なんですよ(笑)。ずっと感動しているんです。でも、心を鬼にして、瞳としてもっと高みを目指す。『この声を聞いてダメだと感じる。(瞳は)一体、どんなところを目指しているんだろう』。そんなことを想像する時間が、この役の醍醐味なのかなと思います」

「サウンドバック 奏の石」
「サウンドバック 奏の石」
「運命戦線リデルライト」
「運命戦線リデルライト」

撮影時に印象的だったのは、吉野監督のディレクションだ。理想の画を追求するために、かなり細かくカットを割りながら、OKテイクを模索していった。吉岡は「とんでもなく画作りをこだわる方なので、カット数も多めなのかもしれません。今日のシーンは特にそうです」と言い表した。

「エンタメ作品だからといって、ド派手にするわけじゃない。そこが話し合っていて、楽しいポイントなんです。微妙な差みたいなものを、きちんとすくい取ってくれる。『ちょっとした起伏だけでいい』とよく言われるんですが、必要以上に大きく見せないんです。それが吉野監督らしいところ。いつも優しく、柔らかく、でも冷静に現場と芝居を見ていらっしゃいます。派手な演出がなくても、最後は心にグッとくる。吉野監督といれば、そんなところに辿り着ける。現場にいると、そう感じますね」

本作の核を成すのは、もちろん「アニメ」だ。吉岡にも、大事な作品がいくつもあるようだ。

「両親が子どもの頃に見せてくれていたジブリ作品やディズニー映画は、私にとっては忘れられない作品です。弟とは『未来少年コナン』『スポンジ・ボブ』『パワーパフ ガールズ』をよく見ていました。外せないのは『おジャ魔女どれみ』。初めてキャラクターとして好きになったのは『うる星やつら』のラムちゃんです。フリーマーケットで買った小さいラムちゃん人形を、いつも持ち歩いていました。原作漫画が好きで、アニメを見るようになったという作品もあるんです。例えば、松本大洋さんの『鉄コン筋クリート』、矢沢あいさんの『Paradise Kiss』。それと長井龍雪監督作品は、やっぱり全部好きなんです」

ハケンアニメ!」参加にあたり、鑑賞したのは「たまこラブストーリー」(山田尚子監督)。さらにアニメーション業界の日常を描く群像劇「SHIROBAKO」には「めちゃくちゃ泣いてしまいました……」と打ち明ける。女子高生によるアニメ制作活動を描いた「映像研には手を出すな!」からは「“とにかく絵が描きたい”という熱い思い」を受け取った。コロナ禍では「約束のネバーランド」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」を一気見。嬉々とした表情で話す吉岡。最早、何時間でも話せるという勢いだ。

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ハケンアニメ!」に登場するキャラクターたちには、共通点がある。それは「自分が携わった作品を“面白い”と言えること」だ。そんな素直で、ストレートな振る舞いが胸を打つ。だからこそ、吉岡の自信あふれる発言には嬉しくなった。

「この作品、めちゃくちゃ面白いと思います」

もちろん、出演者が「自信をもって“届ける”」というのは当たり前のことだろう。しかし、吉岡は「もしも私が出演していなくても、この映画の存在を知ったら、絶対に見に行っています」と続け、自らの思いの丈を述べてくれた。

「それほど原作や脚本、テーマが面白いんです。エンタメにふりすぎず、内面の葛藤、キャラクターそれぞれの心の機微が、きちんと描かれていますし、現場にいる身としては、どのカットにも“ワクワクする気持ち”がちりばめられていると感じています。(『ハケンアニメ!』が)すごく好きなんです」

ハケンアニメ!」は、5月20日から全国公開。

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