【「MEMORIA メモリア」評論】脳内に響く爆音。アピチャッポンの新作は夢幻とサプライズに満ちたドラマ
2022年3月6日 22:00

「ブンミおじさんの森」などで知られるアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が、初めてタイを離れて撮影し、74回カンヌ映画祭の審査員賞を受賞した作品。音と記憶をめぐる旅がテーマになっている。
コロンビア・メデジンに住む農園家のジェシカ(ティルダ・スウィントン)は、入院している妹の見舞いで訪れた首都ボコタでの滞在中、脳内で不規則に響く破裂音に悩まされる。原因を探るため音響技師(フアン・パブロ・ウレゴ)に音を合成してもらったり、病院で出会った考古学者アニエス(ジャンヌ・バリバール)を遺跡の発掘現場に訪ねたりするうち、河畔ですべての記憶を持つ男(エルキン・ディアス)に出会う。
東京でも2017年に開催されたアピチャッポンの個展「MEMORIA」の作品群に加え、監督が実際に体験した「脳内爆発音症候群」を物語の中心に置いた奇妙なファンタジー。スウィントンの役名は監督お気に入りの古典ホラー「私はゾンビと歩いた!」の登場人物、白いドレス姿で夢遊する農場主の妻ジェシカ・ホランドから取られており、本作で180cmの長身を屈めて町をさまようスウィントンは、この幻想的なゾンビにイメージを重ねられている。
タイ人として初めてパルム・ドールを獲得、今や三大映画祭の常連となった監督の新作だけに、プロデューサー陣は約40名にも上り、ジャ・ジャンクー監督や俳優のダニー・グローバーらも名を連ねており、世界の映画人が寄せる期待の高さを感じる。
海外オールロケに加え主要キャストをプロの俳優で固めるなど、監督としての新機軸に目が行く本作。新旧の興趣を持つ都市部と、悠久の自然を感じる郊外とコロンビアの持つ二面性が、タイに劣らないロケ地であることを映画は証明する。俳優たちは贅沢な間合いの演技を披露。プロを起用して生まれた余裕は、従来のアピチャッポン作品の中でも少なめの100に満たないカット数とも相まって、観る者を陶然した境地へと誘う。そこにジェシカの「音」が唐突に響くことで、画面で体を震わせる彼女と同様に、我々も現実に引き戻される感覚を味わう。
後半に登場する河畔の男によって「ブレードランナー」「マトリックス」にも通じる展開を見せ、スピルバーグに捧げられたような終盤は予想のはるか斜め上をいく。類い稀な才能ながら、タイ当局から政治的と断定され、国内での創作活動を制限されているアピチャッポン監督。逆にこれまで以上に活躍の場が広がることになれば、その方が喜ばしい。
(C)Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021.
関連ニュース






映画.com注目特集をチェック

アマチュア
【殺しはアマチュア、しかし頭脳は最高】スパイ史上最も地味、だが最も予測不能な男が面白すぎた!
提供:ディズニー

HERE 時を越えて
【何だこのすごい映画は!?】まるで動かない「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 ラストの多幸感よ…
提供:キノフィルムズ

異常者×異常者×異常者×異常者×…
【イカれた映画が爆誕】危険な色気の“異常者”たちが無許可のミッションに挑む…ぶっ刺さる一作!
提供:KADOKAWA

片思い世界
【超ネタバレ厳禁→からの涙腺崩壊】あ~…何も言えない! 話したいからとにかく早く観て!!
提供:リトルモア

ミッキー17
【観たら社畜の憂鬱が吹っ飛んだ】過酷なブラック仕事を描いた至高エンタメ…スカッとすぎるんじゃ!
提供:ワーナー・ブラザース映画

侍タイムスリッパー
【ついに見放題“最速”配信中!!!】観たかった人も、何度も観た人も今すぐ観よう!【奇跡のヒット作】
提供:JCOM株式会社

衝撃の問題作
【2025年で最も期待する“過激な一作”】ついに最終章――未見の人がうらやましい。
提供:ディズニー

映画館で観ないとぜっっったい後悔する
【ラスト5分の破壊力】そして“観たことないシーン”のゲリラ豪雨に、感動を超えてもはや放心状態――
提供:東和ピクチャーズ

映画を安く観るなら、絶対にチェック!
【映画2000円は高すぎる!!?】知らないと損な“超安く観る裏ワザ”、ここに置いときます
提供:KDDI