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タル・ベーラ、映画監督デビュー当時を回想 日本初公開の初期3作を解説

2022年1月29日 09:00

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タル・ベーラ監督
タル・ベーラ監督
copyright Marton Perlaki

サタンタンゴ」「ニーチェの馬」のタル・ベーラ監督がキャリア初期に手がけた3作品を4Kデジタルレストア版で、日本初公開する特集「タル・ベーラ 伝説前夜」が1月29日からシアター・イメージフォーラムでスタート。本特集では、「ダムネーション 天罰」(88)、「ファミリー・ネスト」(77)、「アウトサイダー(1981)」の3作を紹介する。このほど、タル・ベーラ監督がオンラインインタビューに応じた。

デビュー作である「ファミリー・ネスト」製作時は22歳。“ジョン・カサベテスケン・ローチの作品を想起させる”と評された本作は、住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿をドキュメンタリータッチの映像で捉えたリアリズム溢れる物語だ。

「当時の私は、ただただ怒りに満ちていました。社会全体に対して、人々の置かれている最悪な状況を憎んでいました。映画づくりについてはほとんど何も知らず、お金もありませんでしたが、映画が大好きだったので、パンチのように人々に衝撃を与える作品を作りたかったのです。当時の人々のリアルな生活を見せられるような映画、そういったシンプルな思いで作ったのが『ファミリー・ネスト』です。5日間で撮影し、予算は1万ドル程度。キャスティングしたのは映画を始める前から知っている人たちです。こういう人たちが身近にいたのです」

ブダペストの映画芸術アカデミー在籍中に発表した長編第2作「アウトサイダー(1981)」は、カラー作品で、社会にうまく適応することが難しく、金銭的な困難も抱え、恋人との愛情関係や結婚しても家庭を維持できないミュージシャンの姿を描き出す。

「『ファミリー・ネスト』はドラマでした。でも自分は文学、小説が好きだったので、文学と同じように壮大で、ドラマとは違った形の映画ができないだろうと考えたのが『アウトサイダー』です。小説のように常に浮遊しているような感覚、それが自分にとってはある種の面白いフォルムだったわけです。主人公達とは小さな町で出会って、自然にこういう風に作ればいいんじゃないかという案が浮かんできました。当時は24歳くらいと、とても若かったのですが、自分の世代やヒッピー的な生活について発信したいと考えていたので、当時の自分にとって、この作品を作れたことはとても良いことでした」

ダムネーション 天罰」は、のちに「サタンタンゴ」を手掛ける製作メンバーが揃い、タル・ベーラ独自のスタイルを確立させた記念碑的作品。荒廃した鉱山の町の酒場を舞台に、男女の悲喜こもごもを描く。降り続く雨、街の人々と共存する野犬など、「サタンタンゴ」「ニーチェの馬」でも見られる、動物や自然への眼差しも物語の重要な役割を担っており、また静謐で美しいモノクローム、長回しを多用するフォルムは日本の能からの影響だと明かす。

「『ダムネーション 天罰』では自然や動物との関係も掘り下げていきました。『サタンタンゴ』のオープニングも同様です。『ダムネーション 天罰』と初期の作品との違いということに目を向けると、映画を撮り始めた当初、私は社会的なことや、世界を変えたいという思いで作っていましたが、より一歩前に進んで、それらの問題は人間だけの関係にとどまらないとわかり、自然や宇宙というより深い題材を考えるようになったと言えるかもしれません」

2011年の「ニーチェの馬」を最後に映画監督からの引退を表明したが、ボスニア・ヘルツェゴビナの映画学校「film.factory」で後進育成に尽力し、「セノーテ」の小田香監督らを輩出した。指導者の立場で、自身の若き日の作品を見返したりすることはあるのか?と問うと、「自分の作品を見返すのは好きではないですね。そもそも自分の作品は覚えていますし、自分が何をしたかもわかっているからです。ある映画を作った時、その時にあるやり方を試し、その後新しく疑問やアイディアが浮かぶかもしれないけれども、それまでのやり方ではその新しい問いに答えることはできないのです。常に前に進むしかないのです」

そして初期作の日本初公開にあたり、「目を見開いて、心を開いて作品を見ていただきたい。そしてできれば、楽しんでください」と観客へ向けてメッセージを送った。

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