第78回ベネチア国際映画祭が開幕、審査委員長ポン・ジュノ「コロナによって映画産業が破壊されるとは思わない」
2021年9月2日 16:00
第78回ベネチア国際映画祭が、9月1日に開幕した。昨年はパンデミックさなかにおける初の大型映画祭を成功させ、その後に続くフェスティバルの見本となったベネチア。今年も会場の定員を半分に減らすなど、昨年の基準を踏襲した上で、衛生パス、もしくはPCR検査の陰性証明が必要になるなど、さらに厳しい規則をもうけて開催の運びとなった。
開幕の審査員会見では、パンデミック下の映画界の状況について尋ねられた審査委員長のポン・ジュノが、「昨年のベネチアは、コロナ下でも映画祭を無事に運営できることを証明した。世界的なパンデミックの状況下でも我々は復活することができたわけで、コロナによって映画産業が破壊されるとは思わない。これからも映画は生き延びる」と、力強く宣言した。
審査員メンバーは、昨年金獅子賞に輝いた「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督、女優のサラ・ガドンとビルジニー・エフィラら7人で構成されるなか、女性が4人と過半数になっている。ジャオ監督は、「昨年は来ることができず悔しい思いをしたので、今年こうして参加することができたのはとても光栄。とくにポン・ジュノ監督をはじめ素晴らしい審査員メンバーと一緒に仕事ができることに喜びを感じています」と語った。
セレクションは、オープニングにペドロ・アルモドバルの新作「Parallel Mothers」が選ばれた他、クリステン・スチュワートがダイアナ姫に扮するパブロ・ララインの「Spencer」、マギー・ギレンホール初監督作「The Lost Daughter」など、計21本。Netflix作品も、ジェーン・カンピオンの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」と、パオロ・ソレンティーノの「The Hand of God」がある。
アウト・オブ・コンペティションにはドゥニ・ビルヌーブの話題作「DUNE デューン 砂の惑星」、エドガー・ライトの「ラストナイト・イン・ソーホー」、今年栄誉金獅子賞を授与されるリドリー・スコットの「最後の決闘裁判」、ジュゼッペ・トルナトーレ監督がメガホンを握ったエンニオ・モリコーネのドキュメンタリー「Ennio」などが並ぶ。日本映画は併設のオリゾンティ部門に、湯浅政明監督の時代劇アニメーション「犬王」が入選した。
映画祭のアーティスティック・ディレクター、アルベルト・バルベラは、「ベネチアは初めてNetflix作品をコンペティションに入れた映画祭だが、パンデミックの影響でプラットホームのみならずリリースの状況は変化している。これからは映画館と配信のダブルシステムになっていくだろう。映画祭はそれを受け入れることによって、対話の場をもたらしていく。観客にとっては選択の幅が増えるわけでだが、いまの若い人々には、映画館と配信の両方で作品を見比べることによって、同じ映画でも見え方がまったく異なることも知ってもらいたい」と締めくくった。
映画祭は9月11日に閉会式が行われ、各受賞者が発表される。昨年以上の熱い連帯意識を感じさせる映画祭になるのか、注目したい。(佐藤久理子)
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。