【「子供はわかってあげない」評論】夏の思い出、家族への愛、初めての恋心が痛いほど伝わってくる青春映画
2021年8月22日 10:30

「モリのいる場所」「おらおらでひとりいぐも」とお年寄りが主人公の作品が続いた沖田修一監督が、10代の若者を主人公に、夏休みが舞台の青春映画を撮り上げた。最新作「子供はわかってあげない」は、田島列島の人気同名コミックを実写映画化したものだが、沖田監督にとって初めてのコミック原作の映画化で新境地を開拓した。
冒頭、主人公の女子高生が好きなアニメーションから始まり、前作「おらおらでひとりいぐも」の冒頭のアニメ同様にこれから始まる物語展開の布石を打ってきてニヤリとさせられる。ここから全編を通して、どこか不思議なおかしさが続いていくのだ。
それは上白石萌歌演じる高校2年生、水泳部員の美波が、真面目に、真剣になればなるほど笑ってしまうという性質ともつながってくる。普通であればシリアスで「ワケあり」な状況や事情のはずなのだが、本作には飄々とした“肯定のまなざし”が通底していて、辛いことも優しく受け止め、ユーモアあふれるあたたかさで描かれていく。それは原作のまなざしに、沖田監督の人間やこの世界への独特なまなざしがプラスされているからなのだろう。
そして、美波を演じた上白石の瑞々しさとまなざし、撮影時にしか撮れない輝きがこの映画を珠玉の青春映画にしている。歌手としても活躍し、これまでアニメ映画「未来のミライ」などの声優や、ドラマ「義母と娘のブルース」、映画「羊と鋼の森」などでの確かな演技で評価されているが、「子供はわかってあげない」は彼女の新たな代表作の一本となったと言っていい。上白石の向日葵のような笑顔と、くりっとした瞳からこぼれ落ちる涙から、青春の尊さ、忘れられない夏休みの思い出、家族への愛情、発狂しそうなほどの初めての恋心が痛いほど伝わってくる。相手役のもじくんを演じた細田佳央太との告白シーンは秀逸だ。
また、そんな美波を豊川悦司、千葉雄大、斉藤由貴、古舘寛治、きたろうといった個性派俳優たちが受け止め、支えている。特に、美波が幼い頃に別れた父親を演じた豊川の円熟味をもった軽やかな存在感が素晴らしい。何やら怪しげで、胡散臭くなってしまいそうな父親を時に軽妙に、リアルな哀愁をもって、別れていた娘との距離を縮めていく姿は、豊川にしか演じられなかったのではないか。不意に訪れた海辺の町での娘との夏休み。言葉にはしなくてもどこかで相通じる二人。ずっとは続かないとわかってはいても、もじくんと帰る娘を見送った後の父親の後姿は寂しく、豊川の背中は、まるで小津安二郎監督作品の笠智衆のように見えた。この映画を見終わってすぐに、美波と父親の再会を願ってしまうに違いない。少女の通過儀礼を通し、人生いろいろあるけど、笑って、泣いて、明日も頑張ってみようという元気をもらえる作品だ。
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