子供はわかってあげない
劇場公開日:2021年8月20日
解説
田島列島の人気同名コミックを上白石萌歌主演、「南極料理人」「横道世之介」の沖田修一のメガホンで実写映画化。ひょんなことがきっかけで意気投合した美波ともじくん。美波のもとに突然届いた「謎のお札」をきっかけに、2人は幼い頃に行方がわからなくなった美波の実の父を捜すことになった。女性のような見た目で、探偵をしているというもじくんの兄・明大の協力により、実の父・藁谷友充はあっさりと捜し当ててしまった。美波は今の家族には内緒で、友充に会いに行くが……。主人公・美波役を上白石、もじくん役を「町田くんの世界」の細田佳央太がそれぞれ演じ、豊川悦司、千葉雄大、斉藤由貴、古舘寛治らが脇を固める。
2021年製作/138分/PG12/日本
配給:日活
スタッフ・キャスト
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2021年10月8日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
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冒頭、主人公の女子高生が好きなアニメーションから始まり、沖田修一監督の前作「おらおらでひとりいぐも」の冒頭のアニメ同様に、これから始まる物語展開の布石を打ってきてニヤリとさせられます。ここから全編を通して、どこか不思議なおかしさが続いていきます。
それは上白石萌歌演じる高校2年生、水泳部員の美波が、真面目に、真剣になればなるほど笑ってしまうという性質ともつながってくるのです。普通であればシリアスで「ワケあり」な状況や事情のはずなのですが、本作には飄々とした“肯定のまなざし”が通底していて、辛いことも優しく受け止め、ユーモアあふれるあたたかさで描かれていきます。それは原作のまなざしに、沖田監督の人間やこの世界への独特なまなざしがプラスされているからなのでしょう。
なんでこんなにしあわせな映画ができるのか? 沖田修一監督のもっているリズムとユーモアや、その世界観で漂っているような俳優たちの妙演など、素晴らしいポイントはいくつもあって、何の話かよくわからないまま、しあわせに時間が過ぎていく。なんだこれ、発明か。
そして数ある青春映画の中でも特異とも言えるのが、上白石萌歌演じる主人公、朔田美波の、毎日を楽しむ力の強さ。朔田さんは、目の前にあるものをいつも思い切り楽しんでいて、屈託や悩みもあるにはあるけれど、概ね前向きな気持ちが勝ってしまう。青春映画の多くは憂鬱や行き止まりの感覚を描くものだが、本作の朔田さんにはそれがない。しかしそんなものは本作には要らないのだと、上白石萌歌の屈託のなさに教えられる。
この映画は二年前のひと夏に、順撮りで撮影されたという。気がつけば真っ黒に日焼けして、ニコニコしている上白石萌歌の無防備さに、知らず知らずのうちに救われてる。この演技を見るだけでも、割増料金を払いたいくらいである。
いつも独特の温もりと緩急自在の笑いと、心がスッと澄みわたる特別な時間を創り出す沖田修一。彼が手がけると何もかもが沖田カラーに染まっていく。本作もまさかアニメーションで始まるとは思わなかったが、そこから時間をかけてじっくり捉えていくリビングの風景が実に素晴らしい。こんな覚悟の要るアプローチを飄々とやってのけるのが沖田監督らしいところ。上白石や細田のイメージも無理に原作に寄せるのではなく、むしろ彼らの持ち味を大切にしたキャラクターが生き生きと青春を謳歌していて、隅から隅まで好感が持てる。脇を固める名優陣も独特の沖田ワールドを力まず、泳ぐように生きている。この間合い、この呼吸。どこまでも心地よく、クスクス笑わされたかと思えば、ふと涙してる自分に気づかされたりもして、これまた新鮮。ちなみに原作漫画では別の角度からの味わい(もじくんのお兄さんの名探偵ぶりなど)が楽しめたりするので、こちらもお薦めだ。
まず、この映画を見ている人は、きっと「あれ、間違って別のスクリーンに入ってしまった?」と冒頭の数分は、そんな疑問が生まれることでしょう。
でも、心配ありません。間違いなく「子供はわかってあげない」の本編です。
本作は、沖田修一監督作品ですが、これまでの作品の興行収入から考えると、まだ一般的にはそれほど広く認知されているわけでもないのかもしれません。
「南極料理人」や「横道世之介」といった作品などで着実にファンを増やし、実力のある監督の一人です。
ただ、これまでの沖田修一監督作品から考えると、本作は、割と新鮮な感じがします。
それは、これまでは「ちょっと可笑しい」という感じが持ち味でしたが、本作では、「結構、面白い」という感じになっていたからです。
理由の一つには、同名のマンガを原作としていることも関係あるのでしょう。
ただ、それを上回るくらいに上白石萌歌と細田佳央太の演技の化学反応が良く、結構、面白い感じで物語が進んでいくのです。
さらには、千葉雄大も「本領発揮」といった役どころでした。
あえて言うと、大きく前半と後半に分かれているイメージで、特に前半はテンポも良く面白いです。後半も面白いのですが、味のある面白さに変わっていきます。
とりあえず気になったら迷わずに見てみてほしい「良作」です。