【「竜とそばかすの姫」評論】インターネット世界×「美女と野獣」を豪華絢爛なビジュアルと歌で紡ぐ
2021年7月17日 09:00

「時をかける少女」(2006)公開から15年間、3年ごとに新作をつくってきた細田守監督の全部乗せプラスアルファのような作品――豪華絢爛なビジュアルと音楽に圧倒されながら、すごいところにたどり着いたなと驚かされた。大スケールの物語を紡ぐために途方もない物量が注ぎこまれた手描きと3DCG両輪のアニメーションは、映画をつくり続けてきたスタッフの情熱と蓄積があったから実現できたのだろう。
「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」(2000)、「サマーウォーズ」(09)と約10年おきにインターネット世界を題材にした映画を手がけてきた細田監督は、ネットが人の暮らしを変えることを肯定的に描いてきた。本作では「美女と野獣」を発想の原点に、ネットが当たり前のものとなった今の社会で生きる少女が現実と仮想の2つの世界で葛藤しながら成長していく。
主人公のすずは幼い頃に母を亡くしてから、大好きな歌が歌えなくなった引っ込み思案な17歳。彼女は仮想世界でフォロワー3000万人超えのバーチャル歌姫・ベルとして輝かしく羽ばたき、そこで「竜」と呼ばれて恐れられている謎の存在に出会う。美しい仁淀川と鏡川が流れる高知県の田舎町と、見ているだけで楽しくなるグラフィカルな巨大ネット都市「U」を横断しながら、ネット系のガジェットとそれを使った画面や動画がインサートされ、グローバル化した世界を舞台にSNSでありがちな振る舞いや炎上騒ぎなども軽やかに戯画化される。
大きくフィーチャーされた歌のほか、恋愛と友情、親子のドラマ、地方都市の風景など、これまでの細田作品にあった魅力的な要素と新しい挑戦がつめこまれ、「美女と野獣」のプリンセスと同じ名前であるベルが、心を閉ざして野獣のように振るまう竜と踊るシーンまである。サービス満点でエンタメ方向に振りきっているようにみえて、最後まで見ると映画の芯となる部分が刻みこまれているのも心に残った。
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