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自閉症者の世界を映像で表現した映画「僕が跳びはねる理由」 原作・東田直樹さんに聞く

2021年5月28日 12:05

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「僕が跳びはねる理由」原作者の東田直樹さん
「僕が跳びはねる理由」原作者の東田直樹さん

会話のできない自閉症という障害を抱える作家・東田直樹さんが13歳の時に執筆し、世界30カ国以上で出版されたエッセイ「自閉症の僕が跳びはねる理由」をもとに、英国で制作されたドキュメンタリー「僕が跳びはねる理由」。現在、全国の劇場で公開中であり、本日からシネマ映画.comで配信もスタートした。自身の思考を文字盤を用いて表現する東田さんの言葉は、他者との会話や社会生活を困難なく営める人々が、せわしない日常の中で忘れてしまった感覚を取り戻させてくれるような、不思議な魅力と優しい示唆に満ち溢れている。この映画について、そして最近の関心事など、東田さんに話を聞いた。(取材/映画.com編集部)

――私(インタビュアー)は、自閉症の方とお話するのが今回初めてです。コミュニケーションをとる際に、配慮してほしいことなどはありますか?

特別な配慮はいらないと思います。僕は自閉症ですが、常識がないわけではなく、みんなと同じようなコミュニケーションがとても苦手なだけです。どうしていいのか分からないこともあると思いますが、自然体で接してもらえれば、大丈夫です。

――この映画は、東田さんの美しい言葉、体じゅうで感情を伝える世界の5人と彼らをサポートする方々の優しさと熱意、そして人間を取り巻く自然環境と日常生活が、まるで映像詩のように展開します。東田さんがこの映画をご覧になった感想を教えてください。

「映像詩」という言葉は素敵ですね。僕が13歳のときに書いた本「自閉症の僕が跳びはねる理由」の文章を映像という手段で表現してくださったこの映画は、まるで自閉症者になったかのような視覚や聴覚を体感することができるのがひとつの特徴だと思います。映画をご覧くださった方々が、これまで以上に自閉症者や自閉症家族に対して好意的な印象を持ってくださればうれしいです。

僕の本が映画の原作になったことは、今でも夢のようだと思っています。プロデューサーのジェレミー・ディアさん、スティービー・リーさん始め、ジェリー・ロスウェル監督、翻訳者のデビッド・ミッチェルさん、制作スタッフ、そして出演者の方々には心から感謝しています。

おっしゃるように映画の中には、絵を描いたり、自分なりの方法で会話したりする自閉症者が登場します。「体じゅうで感情を伝える」と表現してくださいましたが、自分という存在をわかってもらうために必死で生きている自閉症者と家族の姿を追っています。映画をご覧になって「かわいそう」というひと言では表せない気持ちになってくださったなら、それはもう、人ごとではなくなったせいではないでしょうか。自閉症者も、この世界で生きている仲間だと思っていただけることを祈っています。

――ジェリー・ロスウェル監督とも会われているそうですが、映画化にあたり、東田さんから何かリクエストされたことはありましたか?

監督にお会いした際、映画に対する情熱をお聞かせいただき光栄でした。僕の出演は、ご遠慮させていただきました。映画は制作者が自分の意思で自由につくるものだと考えていましたので、リクエストは出していません。原作と映画は、誰がつくったのかという点においては、全く別のものだと思っています。原作を読んでくださった監督が、どのような映画にしてくださるのか、皆様同様、僕も楽しみにしていました。

画像3(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute
――この映画で特に気に入っているシーンや表現があったら教えてください。

映像技術の素晴らしさに感動しました。また、この映画でしか味わうことのできない独特なサウンドは、音響でも高い評価を受けていますので、ぜひ映画館でもご覧いただければと思います。

映画の中で興味深かったのは、ナビゲーターのような存在として出てくる少年の行動です。少年は、荒野のような場所やどこかで見たことのある風景の中を歩き続けているのですが、目的地が気になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この少年は僕というより、みんなの記憶の中にいる子どもではないかと思うのです。自分自身の幼い頃や知り合いの子どものように感じる方もいるかもしれません。少年を見て親しみを抱いたり、気になったりするのは、少年がまだひとりでは生きていけない子どもだからでしょう。山奥から次第に街中へ風景が移るとき、少年のいる世界は、決して夢などではなく、現実なのだと感じました。この続きは映画でご覧いただきたいのですが、ラストは人と人との絆、そして未来への希望について考えさせられるシーンになっています。

――文章表現をする東田さん、絵画が得意なアムリットさん、音に敏感なジョスさんなど、普通の人々が捉えられない感性を持つアーティストでもあると思います。何かを表現することや創作活動に喜びを感じますか?

何かを表現したいと思うのは、人間の本質的な欲求です。それは自分を理解して欲しい気持ちから生まれるものだと思います。作品を鑑賞する際、人は作家の思いを想像すると同時に、その作品から感じた自分自身の心を見つめます。そこで、心と心の交流が生まれているのではないでしょうか。僕自身は文章を綴ることに生きがいを感じています。自閉症者のことを普通の人々が捉えられない感性を持っているアーティストだと言ってくださって、ありがとうございます。

画像2
――普段、映画をご覧になることはございますか?もしあるようでしたら、好きな作品やジャンルなどを教えてください。

映画館で鑑賞することもありますが、テレビ番組やDVDで見ることが多いです。

好きな作品は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「不思議の国のアリス」です。最近では、「ジャックと天空の巨人」というDVDを自宅で見ました。空想でしか描けないようなストーリーの映画が好きですが、人間の心理を描写した「ハドソン川の奇跡」や「パラサイト 半地下の家族」にも感銘を受けました。

――この映画が世界の方々に届き、そして大きな反響を呼んだことについてのご感想を教えてください。

世界の方々にご覧いただけたことは、自閉症者に対する理解が広まるという点において有難いことだと思っています。自閉症者といってもひとりひとり違うわけですから、僕と同じではないと思っていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。

僕は、自閉症者に関心を持っていただくことが大切だと考えています。自閉症者がどのような生きづらさを抱えているのか知ってもらえれば、自閉症者の社会参加がこれまで以上に進むような気がするからです。これからも映画で自閉症をテーマとした新しい作品が制作されることを願っています。

――今、東田さんが特に興味や関心を持たれていることは何でしょうか?

今は簡単に外出ができないので、自宅でテレビを見ることが多いです。テレビ番組を見ながら、こんな所に行きたいなと想像を膨らませています。僕は自然が好きなので大自然が映し出された風景を見ると引き込まれるように見入ってしまいます。そうはいっても、ひとつの風景を長く見続けることは苦手です。感動したとたんに、脳がかたまってしまうような状態になるので、そうなる前に視線を移す癖がついています。外にいる時には急に走り出してしまうことさえあります。

思考することも好きです。考えることは趣味ではないと思われるかもしれませんが、自由にものを考えるという時間は、空に羽ばたいているみたいな開放感を感じるので、僕にとっては楽しい時間です。

――東田さんの著作やこの映画から、様々な気づきや精神的な豊かさを与えていただいたような気がします。発語での会話や日常生活を営む難しさなど、我々には計り知れないご苦労があると思いますが、東田さんご自身、自閉症という障害があっても良かった、と思われることはありますか?

僕は、昔は自分のことが嫌いでした。みんなのようにきちんと出来ないし、あたりまえの行動が難しいからです。出来ることを出来るだけやっているうちに、自分のことだけでなく、みんなのことも見えてくるようになりました。誰でも幸せになるために努力をしなければいけないと思うようになったのです。自閉症で良かったと思うのは、人が気づかないような物の美しさや自然に感動することが、人一倍に感じられることです。

――エッセイ「自閉症の僕が跳びはねる理由」の中で、「人類は多くの命を殺し、地球を自分勝手に破壊してきました。人類がそのことに危機感を感じ、自閉症の人達を作り出したのでは」と想像し、自閉症の人達の存在によって「この地球にとっての大切な何かを思い出してくれたら嬉しい」と、13歳の時点で書かれていたことに驚きました。現在も環境問題や世界各地で起こる紛争など、地球の状況は良くなっているとは言えません。また昨今は民間の宇宙開発も進んでいます。地球や宇宙についての思いをお聞かせください。

地球に住んでいるのは、人間だけではありません。この時を一緒に過ごしている生き物のためにも、人間が自分勝手な行動をすべきではないと思っています。どうすれば人だけでなく、他の生き物も幸せに生きることが出来るのかは難しい問題ですが、まずは不必要な開発などは控えるようにしたほうがいいのではないでしょうか。

宇宙について、僕が心配していることは、人がどんな時も心のよりどころにしているのに、宇宙の謎が解明されすぎてしまい、心にさびしさを感じてしまうようになるのではないかということです。すべて分かることが幸せではないような気がします。人が自分たちの限界を知ることも、大事なことだと思うのです。

執筆者紹介

松村果奈 (まつむらかな)

映画.com編集部員。2011年入社。



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