“盟友”窪塚洋介&堤幸彦監督が語る、20年の変化と進化 「IWGP」“キング”誕生秘話も
2021年2月6日 11:00
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島本理生の同名サスペンス小説を堤幸彦監督が映画化した「ファーストラヴ」で、窪塚洋介が深い海のような優しさを持った男を演じている。彼らの共作といえば、ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」(IWGP)をはじめ“尖った”窪塚を思い浮かべる人も多いように感じるが、なぜ今回、堤監督は彼に“完全な善人”の役を任せたのか。「共犯関係」と呼ぶ2人のタッグにおいても新たなステージへと踏み出した本作についてインタビューを試みると、お互いに刺激を受けながら歩んできた道のりや、今なおファンを生み出し続けている「IWGP」“キング”誕生秘話など、彼らの20年に及ぶ友情の歴史と強固な絆が明らかとなった。(取材・文/成田おり枝、写真/山口真由子)
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事件を取材する公認心理師の真壁由紀(北川景子)が、父親殺しの容疑者・聖山環菜(芳根京子)と面会を重ねるうちに自分の過去の記憶と向き合っていくさまを描く本作。窪塚は由紀を包み込む夫で、写真家の我聞を演じている。我聞の穏やかな優しさが、本作をより力強い物語にしている。そう感じるほど、重要な役どころ。トリッキーな役を数多く演じてきた窪塚にとっては、新鮮なキャラクターでもある。
堤監督は「我聞役は、窪塚くんしか考えられなかった」と言い切る。「人間には、年輪というものがあって」と微笑みつつ、「尖っていた人も年齢を重ねていくと、いろいろなことを自分なりに理解、解釈して、とてもいい味を出すようになる。我聞というのは無言の説得力があるような男ですから、そう考えると、この役をできる人は、私の周りには窪塚洋介しかいないわけです。そして結果、見事に演じ切ってくれた。まさにハマり役です」と感激しきり。
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堤監督とは、映画としては12年ぶりのタッグ。我聞役を受け取った窪塚は「驚いたし、うれしかった」とにっこり。「堤監督からは、『何もしないでくれ』と言われたんです。我聞は人を妬んだり、羨んだりという感情を持たない人物なので、監督には『俺、寺でも行ってきます』と冗談で言っていたんですが(笑)、“何もしない”という芝居はとても難しくもあって。やっぱり僕らって、“何かをしたくなっちゃう病”があるんですよね。我聞としてその場の空気を感じ、味わい、そして監督にそれが合っているのかを判断してもらうという日々でした。それくらい監督に委ねていたので、今までのどの作品よりも『俺、こんな芝居をしていたのか』といった発見のある作品でした」と貴重な経験をしたという。
窪塚曰く、「我聞は、戦地に赴き、世界の果ての人々の笑顔と、身近な町内の人々の笑顔に共通点を見出した人」。堤監督は「我聞は、戦禍でも平時でも、抱えている思いがブレない。そこが窪塚くんとシンクロしていると思う。だからこそ派手な芝居をしなくとも、そこに佇んでいることが最大の芝居になると思った」と語る。
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完成した「ファーストラヴ」を見て、窪塚は「号泣した」と話す。「脚本を読んだときには、このような作品になるなんて思わなかったんです。原作のよさ、監督のプラン、演者さんたちの芝居すべてがすばらしく、ものすごく希望の持てる作品になっていた。クライマックスには青空が出てきますが、その青さに“救い”が映し出されていたよう」と熱弁し、「芳根さんとは撮影でご一緒できなかったのですが、現場では北川さんの生命体の強さ、中村(倫也)くんのスマートさと、恐ろしいほどのキレを感じて、役者ってやっぱり面白いなと思った。自分と向き合ってきた人だけが持つものを大事にして、きちんと歩いてきている2人だと感じて、ものすごくいい刺激をもらいました」と惚れ惚れ。

堤監督は「今回のキャストは奇跡的なカップリングだったと思います」と自信をのぞかせ、また「窪塚洋介の芝居で号泣した」とこちらも涙の告白。「我聞が由紀を胸に抱くシーンはもう、号泣でした。『池袋ウエストゲートパーク』では悔し泣きをさせられたんだけどね」と笑う。「『池袋ウエストゲートパーク』のキングの造形は、すべて窪塚くん本人によるものなんです。僕の演出はほとんどナシ。だから悔し泣きをしたけれど、今回は彼の演技に感動して泣いてしまった。『池袋ウエストゲートパーク』などで突っ走る“エネルギーの人”をやってもらい、『まぼろしの邪馬台国』では傷を負った影のある青年を演じていただいた。そして今回の我聞へと続いていて……と、僕の中では、窪塚くんに演じてもらった役は一つのストーリーになっているんです」と特別な俳優であることを明かし、「監督と役者が、お互いに『泣きました』っていうのは気持ち悪いけどね(笑)。でも事実です」と照れ臭そうに語る。
堤監督による「IWGP」で窪塚が演じた“キング”の愛嬌、狂気、カリスマ性は、放送から20年経った今もなお、人々の胸に熱く生き続けている。今や「困ったときの窪塚頼み」という堤監督だが、窪塚=キングとの出会いは「衝撃なんてもんじゃなかった」と振り返る。
「当時は私も若くて、それなりに生意気でしたからね。一通り、キングという役についてすべて説明したあとで、『それもわかるんですが、僕はこういう風にやってみたいんです』と言われたときのショックといったら!」と語ると、窪塚も大爆笑。堤監督は「でも画にしてみたらめちゃくちゃ面白いし、その時代の日本にものすごい矢を放った。世の中にキングがあふれちゃったくらいですから。“悔しい”を通り越して、だんだん“おいしいな”と思うようになっていましたよ」と目尻を下げる。
窪塚は「堤監督の懐の深さがなかったら、生まれていないキャラクター」としみじみ。「当時20代の僕を信じてくれて、自由にさせてくれた。自分のキャリアとして大きな1ページを作ってくれた方で、そういった意味では、僕を世に出してくれた方の一人でもある。堤監督とご一緒できるのは、本当にうれしい」と感謝があふれ出す。
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お互いの存在を一言で表すなら、「盟友」だという2人。20年の友情の歴史において、刺激を受け合いながら、それぞれ変化・進化を遂げてきた。
堤監督は「かつては“誰も見たことのないものを撮りたい”という、画力のようなものに捕われていた。しかも“誰よりも速く、たくさん”という欲が先行していた。でも今は見た目の派手さ、話題性というところは一度置いておいて、自分にとって心に迫るものとは何だろうか? と考えるようになりました」と自身に起きた変化を吐露する。
窪塚は「どんな作品であれ、堤組の現場はとても居心地がいい」のだとか。「現場のメンバーもほとんど変わらず、監督と現場の持つバランス感覚などが、(『沈黙 サイレンス』で仕事をした)マーティン・スコセッシ監督の現場と似ているような気がするんです。緊張と緩和のバランスも心地良いし、恐ろしく感じるようなオーダーが来ることも含めて(笑)。僕はそういう現場が大好き」と楽しそう。
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強い絆で結ばれていることが、彼らの言葉の端々から感じられる。堤監督は「年齢も親子ほど離れているけれど、どこか表現者としての共通の土台があるような気がしている」とシンパシーを感じると同時に、「窪塚くんはミュージシャンであり、カルチャーの先端を走っている人。自分の思い描く主義や主張を堂々と体現できる人。彼の表現力もうらやましいなとも思いますし、僕はこの人に対するコンプレックスのようなものを、いつまでも持ち続けていくんだろうと思います。だからこそ、窪塚くんとご一緒するのは、面白いんですけれどね」と憧れも抱いている様子。
「次々と、窪塚くんに球を投げたいと思う。今後、僕たちがどこに突撃していくのか楽しみでもある」と未来に思いを馳せると、お茶目に涙を拭うフリをした窪塚は「堤監督からは刺激ももらうし、癒しももらっている」と打ち明ける。「堤監督が初めてオーディオコンテンツを手がけた『アレク氏2120』にも呼んでいただき、『堤さん、こんなこともやるんだ!』と驚きをもらって。堤監督がいつも僕の先を歩いていて、その背中が見えるととても安心する。僕は役者としての心構えは、すごくシンプルでいようと思っているんですが、堤監督からどんなオーダーが来たとしても、それに応えられるような自分でいたい。そのためにも、自分自身ときちんと向き合って、自分の道をしっかり歩いていきたい」と今後にワクワクとしているのは、窪塚も同じ。
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堤監督が「僕は50本ほど作品を撮ってきたけれど、窪塚洋介という猛獣を飼い慣らす歴史だったのかもしれない。死ぬときに、弔辞を読んでもらうことになるのでは!」と笑うと、「堤監督はもはや、親戚のよう。かっこいい親戚のおじさん! 時々『あれは気をつけなさい』とか、そういうことも言われる」と窪塚。「インスタのライブ配信は時間を区切ってやりなさい。それだけです!」(堤監督)と最後まで丁々発止のやり取りを繰り広げていた。
「ファーストラヴ」は2月11日から公開。
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