岩田剛典&新田真剣佑、佐藤祐市監督作「名も無き世界のエンドロール」で味わったものづくりの醍醐味
2021年1月29日 10:00
行成薫の小説を映画化した「名も無き世界のエンドロール」(公開中)で、岩田剛典と新田真剣佑の初共演が実現。サスペンスフルな世界で、深い絆で結ばれた“バディ”の10年を演じ切った。いくつものトリックと伏線が張り巡らされた物語をまとめ上げたのは、映画「累 かさね」やドラマ「危険なビーナス」で知られる佐藤祐市監督。原作と脚本に惚れ込み、3人が全集中して悩みながらも楽しく作ったという本作。「ものづくりの醍醐味を味わった」という撮影を振り返ると、彼らの熱い思いがあふれ出した。(取材・文/成田おり枝 撮影/堀弥生)
原作は、第25回小説すばる新人賞を受賞した同名小説。幼なじみのキダとマコトが10年もの歳月をかけて表と裏の社会でのしあがり、日本中を巻き込む壮大な計画に挑む姿を描く。
激しく時制を行き来し、想像もしえないラストへと突き進むスリリングな内容。サスペンスと人間ドラマの融合した作品に定評のある佐藤監督にとっても、「新しい挑戦」だったという。「岩ちゃん(岩田)とまっけん(新田)は、現場に入ってすぐに兄弟のような信頼関係を築いていることがわかったので、彼らのお芝居に関しては何も心配していませんでした」と信頼を寄せつつ、「とても複雑なストーリーかつ、長い年月を描く物語。その時々の状況ごとに、今はどんな感情なのか、どのようにしたら全体の流れを作ることができるのか、細部にまで気を配りながら撮影に臨みました。隠されている事実やプロポーズ大作戦の結末などもありつつ、全体としてつなげた時に一つの塊としてお客さんに届けられたらいいなと思っていました」と苦労を明かす。
岩田と新田は今回が初共演。穏やかで優しい性格ながら、裏社会に身を置き、危ない橋を渡っていくキダ役を岩田。キダの力を借りながら会社経営者となり、頭脳と情熱で表社会をのし上がっていくマコトを新田が演じた。「一緒にいると居心地がいい」という幼なじみの間に流れる空気感を表現した2人は、お互いへの感謝を口にする。
岩田は「クランクイン前は、キダとマコトの関係性をしっかりと構築するためにはどうしたらいいんだろうと、いろいろと考えていたんです。幼なじみの空気感をどれだけ作り込めるかで、後半の展開にも影響してしまう。でも撮影に入ってみると、まっけんとご飯に行ったりもしましたが、お互いの空気感を感じ取って、自然とキダとマコトになれた。一緒に現場にいるだけで、キダとマコトのほっこりとした学生シーンを撮ることができたので、まっけんと僕の波長が合ったのかなと思っています」と撮影前の心配はすぐに吹き飛んだという。
新田は「まず僕は、インして間もないときに『“岩ちゃん”と呼ばせていただいていいですか?』と聞いたんです」とにっこり。「マコトはムードメーカーで、キダ、そして(2人と友人になる)ヨッチ(山田杏奈)と一緒にいると、一番のおしゃべり。マコトがキダに何を投げかけても、岩田さんはすべて返してくれるので、僕はマコトを演じる上ですごく楽でした。本当に自然にキダとマコトになれたと思っています」と続けると、岩田も「“岩ちゃん”と言ってくれて、本当にうれしかったですね。初日から、まっけんが歩み寄ろうとしてくれているのが感じられて、僕もそれに応えたいと思った」と二人三脚で挑んだ。
撮影は2019年の夏。3人とも「暑かった!」と苦笑いを浮かべ、佐藤監督は「自動車修理工場のロケをさせていただいた場所のご主人が、かき氷機を持ってきてくれて。岩田さんが、『まっけん、かき氷あるよー!』と呼びかけていたのを覚えています」と現場エピソードを披露。
猛暑の厳しさを乗り越えられたことについて、新田は「なによりも面白い脚本だったので、現場でも『これはいい映画になる』と感じられて。やりがいや意欲が湧いてきて、暑さの中でも楽しんで撮影することができました」と明かす。岩田も「脚本を読んで、『こういう作品、大好き!』と思える内容でした。完成作を見たときには、椅子からしばらく立ち上がれないような衝撃もあって。こういった作品に出合えて、本当にうれしい」としみじみ。岩田と新田の熱意、役者力が見事に溶け合い、クライマックスまで緊張感とともに駆け抜ける本作が完成したが、岩田は「まっけんの集中力」、新田は「岩田さんの包容力」が役柄とぴったりだったと証言する。
岩田は「マコトの根っこにはハイテンションな部分があるので、演じるには難しい役でもあると思うんです。まっけんはクランクインしたときからずっと、マコトとして現場にいてくれました。ものすごい集中力です。まっけんがマコトを演じたからこそ、作品に深みが増した」。新田も「僕も岩田さんがキダで、本当によかったと思っています」と告白。「マコトはあらゆるエネルギーをキダにぶつける。岩田さんはそのすべてを受け止めてくれました。いろいろなことを兄のように受け止めてくれて、そういった点もキダと重なりました。僕も思い切り芝居をぶつけることができたんです」と振り返る。
佐藤監督は、彼らの化学反応をもっとも感じたシーンとして、「後半、キダとマコトが諍いを起こすシーン」をあげ、「あのシーンでの2人の集中力には驚きました」と話す。
「キダとマコトの思い、歴史が積み重なっているからこそ、エネルギーを持ってぶつかり合うシーンで、とても大事な場面です。段取りも何度もやって、一度やるごとにみんなでチェックして、もう一回やって……と10テイクくらい重ねたと思います。たくさん時間をかけて、話し合いながら作り上げることができて、僕にとっても大好きなシーンになりました。岩ちゃんとまっけんにも、感謝しかありません」。
「納得できるまで、何度もやりましたね」と懐かしそうに目を細めた岩田は、「撮影当日は、『あのシーンが来るぞ』といつも以上に身構えていた部分もあって。実はマコトとキダが感情を爆発させ合うのって、その場面だけなんです。そこで大人時代の2人の関係性をわかってもらえるようにしなければいけないと思っていましたし、ただ仲が良いというだけではない、彼らの深い友情が伝わるシーンでもあります。全員が緊張感を持って、集中して粘り強く取り組んだ」と語り、「みんなで一つのことに向かっていることを実感できた時間で、ものづくりの醍醐味を味わいました」と充実感をみなぎらせる。
大きくうなずいた新田も「この作品では、みんながチーム一丸となって全集中していることが感じられました。エネルギーもすごかった」と述懐。「みんなのこだわりも感じたし、監督のほしいもの、岩田さんのほしいもの、僕がほしいもの、それらが見事に重なり合っていった。僕にとっても、ものすごく貴重な経験でした」と吐露し、「すごくいい夏だった!」と笑顔がこぼれる。
新型コロナウイルス拡大の影響で、社会にもあらゆる“分断”とも言える事態が起きている。こんな時代だからこそ、本作のキダとマコトが壁を乗り越えようと奮闘する姿が、より心に刺さる。最後に、強固な絆を育みながら自信作を完成させた彼らに、今年の抱負を聞いてみた。
岩田は「コロナ禍で日々情勢が変わる。それに順応していかなければいけない毎日ですが、やはり自分が今やるべきことをやり、いつでも走り出せる準備をしておくことが大事だと思っています。今はきっと、地に足をつけて、自分がやるべきことを見つめる期間。もちろん希望としては、“復活”という思いを抱いていますが、まずは時代に合わせて、やれることを探していきたいと思っています」と前を向き、新田は「僕は視野を広げる年にしたいと思っています。どこにいても、どんな状況でも、諦めずにやりきること。その思いを貫きたいです」と決意表明。
佐藤監督は「岩ちゃんとまっけんが言ったように、目の前のことを着実に、一歩ずつやっていくしかない。厳しい時代というのは、絶対にあるもの。でもいつまでもそれが続くわけではない。一つ一つ自分のやれることを積み重ねていれば、夜明けが来たときに、仕事でもプライベートでも、次のステップに上がっていけるはずだと僕は思っています。そうすればきっとまた、成長した自分、岩ちゃん、まっけんと出会えるはず。また一緒に勝負できるときが来たら、2人に『あいつ、ジジイになったな』と思われないように頑張りたいですね」と語り、これには岩田と新田も「あはは!」と大笑い。「また一緒にやりたいです」と声を弾ませていた。
「名も無き世界のエンドロール」は1月29日から全国公開。同日から、「dTV」でオリジナルドラマ「Re:名も無き世界のエンドロール Half a year later」も配信される。
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