知らない側面が見えても揺るがない――芦田愛菜が「星の子」で感じた“信じる”ことの意味
2020年9月29日 09:00
作家・今村夏子氏の同名小説を映画化した「星の子」が、10月9日から封切られる。主演を務めた芦田愛菜は、思春期を迎えた主人公の揺れ動く感情を繊細に表現した。子役から女優へと成長を遂げた16歳の芦田が、作品への思いや、本作のテーマにも通ずる“信じること”の意味を語った。(取材・文/編集部、撮影/岡本英理)
中学3年生のちひろ(芦田)は、大好きな両親(永瀬正敏、原田知世)から愛情たっぷりに育てられてきた。しかし、両親はちひろが生まれた時の病気を奇跡的に治した“あやしい宗教”を深く信じている。思春期を迎えたちひろは、生まれて初めて家族とともに過ごす自分の世界を疑い始めていく。
先日行われた本作のイベントでは、芦田自身の思う“信じる”ことについて語り、その達観した考えに驚かされた。芦田が本作を見て最初に感じたことでもあったという。
「この作品を見て私が一番強く感じたことは、信じるって何だろうということでした。その人のことを信じようという言葉をよく使うと思うのですが、それってどういう意味なんだろうと考えたときに、その人自身を信じているのではなくて、自分の思う理想像を期待してしまっているのではないかと感じました。だから、『期待していたのに』とか『裏切られた』というような言葉が出てきてしまう。でも、普段見えなかった側面が見えただけで、裏切られたわけではないのかなと思います。知らなかった側面が見えたときに、それもその人なんだって受け止めて決断できる揺るがない自分がいる。それが信じるっていうことなんだと思いました」
芦田なりに考えたという信じることの意味。「でも、どうしても揺らいでしまうと思うので、だからこそ人は『信じる』って声に出して言うことで、例えば成功した自分や理想とする相手にすがりたいんじゃないかなって思いました」。丁寧に、しっかりと自分の言葉でそう話す。
本作のメガホンをとったのは、「さよなら渓谷」「日日是好日」などの大森立嗣監督。「大森監督は、ちひろを私に委ねてくださいました。具体的にどういう風に演じてほしいとはおっしゃらないのですが、会話をするなかでちひろになるためのヒントをいただいて、2人でちひろを作り上げていく気がしました。よく『会話を楽しんでね』とおっしゃられるのですが、会話を通して作られるものがお芝居なんだなって改めて感じました」。
ちひろについては「自分の意見を持っていて、周りで起こっていることを受け止めて考えて意見が持てる子。思春期の心の揺れを表現できたらと思いました」と解釈し、撮影前には、自らの提案で髪の毛をばっさりカットした。
「切ってよかったです。自分のイメージするちひろに見た目だけでも近づけた気がしました。髪の長い自分がちひろを演じているということにしっくりこなかったので、監督に髪を切りたいと伝えました。ちひろのイメージは人それぞれで、私は感覚的なものかもしれませんが、そのときの自分だとしっくりこなかったんです。これくらい短いのは久しぶりですが肩が軽くて。今までとは違う自分を楽しんでいますが、役によってまた長い髪も試してみたいです」。
ちひろが恋する南先生(岡田将生)に感情をぶつけられ、涙を見せるシーンでは、苦しさがじわじわと染みていくような泣き方が印象的だった。
「大森監督が順撮りで撮ってくださったので、気持ちの流れはわかりやすくて演じやすかったです。あのシーンはちひろがたまってきたものを爆発させるシーンだと感じました。今までは自分に起きたことを素直に受け止めてきて、いい意味で穢れや悪意を知らない純粋な女の子だったので、本当に衝撃的だったと思います。どうしていいかわからない感情があるときに友達に話しかけてもらって、自分には受け止めてくれる人がいるんだって、だんだんほっとした泣き方に変わっていくんだなって思いました」。
そのシーンの説明含め、役柄、作品への理解度のすさまじさに驚いていると、「私をつくりあげる大きな部分は本を読むことが占めているので、そういうのが役立っているなと思います」と秘訣を告白。最後に、高校生活の目標を聞くと「たわいもない話をしてふざけ合っている時間も私はすごく楽しいので、友達と過ごす時間をもっと大切にしたいなって思います」と、16歳らしい無邪気な笑顔を見せた。
「星の子」は10月9日から全国公開。
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