上田慎一郎監督が示す、日本映画界に“欠けているもの”と“今できる事”
2020年7月15日 18:00
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[映画.com ニュース] 上田慎一郎監督の最新作「スペシャルアクターズ」が、ニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催される北米最大の日本映画祭「第14回JAPAN CUTS(ジャパン・カッツ)」(7月17~30日にオンライン開催)のオープニングナイト作品に選出された。今回のお披露目に際し、上田監督へのインタビューを実施。同作の製作背景に加え、日本映画界に対する思いを語ってもらった。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
記録的な興行となった「カメラを止めるな!」は、2019年2月に「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ベイビー・ドライバー」のエドガー・ライト監督に絶賛され、その後「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のジェームズ・ガン監督が「自主隔離の機会にストリーミングで見るべき隠れた名作映画10本」に選出。7月8日には、ホラー小説の巨匠スティーブン・キングが同作を鑑賞したことを明かし、世間を賑わせた。上田監督は、世界に向けて着実に歩みを進めている。
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19年10月に発表した「スペシャルアクターズ」は、演じることを使った何でも屋でもある俳優事務所の面々が、カルト集団から旅館を守るという仕事に臨むさまを描いた作品だ。「『カメラを止めるな!』の公開以降、原作モノや他の人の脚本での監督依頼もたくさんありました」という上田監督。そのような依頼がありながらも「本企画の監督依頼が最も早かったこと。そして、プロデューサーの熱意と人柄に信頼が持てた事が大きかった」という理由から、自身の経験を盛りこんだ完全オリジナルストーリーに着手。知名度、経験の差を問わず、キャストはオーディションで決めるという方針をとった。
上田監督「商業映画では名のある俳優、経験豊かな俳優を起用するのが一般的です。しかし、それは今後の監督作でも出来ることです。本企画では、まだ無名の俳優たち、経験が浅い俳優たちや演技未経験者を起用する事が許されていました。本作は、俳優たちとのワークショップを経て、ゼロからストーリーを創りました。15人の俳優を選抜した時点では、脚本どころか、企画も固まっていませんでした。というわけで、ワークショップでは各キャストが持つ魅力を探るべく、エチュード(即興劇)を多く行いました」
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「カメラを止めるな!」撮影時と比較すると、予算は300万円から5000万円に増加し、スタッフの数は10人前後から30人以上に。製作規模の拡大は、新たな問題を生むことになった。「製作規模が大きくなり、スタッフの数が多くなると、どうしてもフットワークは鈍り、撮影スピードも落ちてしまいます。最初はその違いに戸惑いもしましたが、そういった商業映画のあり方を受け入れ、それをいかに自分のやり方にカスタマイズしていくかに気持ちを切り替えていきました」と告白。最終的に“原点回帰”を試みることになる。
上田監督「撮影手法としてこだわったのは、(これまでの作品もそうですが)出来るだけカットを割らず長回しで撮ること。カットを割らないという事は役者の芝居も割らないということ。それは、台本には書かれていない役者たちの相槌(あいづち)、吐息、表情、二度と撮れない瞬間も映像に納めたいと思っているからです」
同作のオープニングナイト作品選出については「オープニング作品は、映画祭の“その年の顔”ともいえるポジションだと思います。そこに『スペシャルアクターズ』を選んで頂き大変光栄です」と胸中を吐露。「『カメラを止めるな!』『スペシャルアクターズ』で様々な海外の映画祭に行く事が出来ました。自分たちの創った映画が、日本だけでなく、海外でも楽しんでもらえる事を肌で体感し、目を開かされました。お客さんは日本だけでなく世界中にいるんだと。今後も海外の映画祭や公開に対して、積極的に行動していきたいです」と思いの丈を述べている。

その思いとともに、現在の日本映画界に対する見解を示す。「(欠けている部分は)世界での公開を視野に入れた映画づくり。日本は海外の映画祭や世界での興行に対してモチベーションが低いと感じています。映画を創る時はパーソナルでもいい。でも届ける時はグローバルに考えたいなと思います」と語る上田監督。「予算がないと時間がかけられない。予算がないと十分なスタッフを確保できない。結果、低賃金、長時間労働などに繋がってしまう」と根本的な問題にも苦言を呈した。
上田監督は、映画館「アップリンク」従業員のパワーハラスメント訴訟に対しても、自らの考えを世に発信し続けている。「パワハラ問題や労働問題については、皆、発信や議論を避けている雰囲気があります。やはりそれは程度の差こそあれど、自分の身にも覚えがあるからだと思います。安いギャラで働かせてしまった事。長時間労働させてしまった事。そういった事は一切ないと断言できる人はほとんどいないからだと思います。そして、それらを守ろうとすると立ち行かなくなってしまう予算の少なさが根本問題としてある。基本的に日本の映画業界は“予算が少ないなかで無理をしている”状況がずっと続いています」と前置きし、「今できる事」を提案する。
上田監督「それは各々の制作会社、組、チームなどの小さな単位からでもいいので、それぞれが労働基準を作り、契約書をかわし、実践していくこと。そして実践した事を発信していくこと。その声を大きくしていき、業界全体の空気や価値観を変えていくこと。そういった事が必要だと思います」
そして、現在のコロナ渦において「映画業界は大きな転換点を迎えたと思います」と語る。「興行については、映画館VS配信ではなく映画館+配信で考える。製作については、コロナ禍の中で得たリモートワークなどを取り入れて効率化し、クリエイティブにさけるお金と時間を増やす。新しいものを受け入れ、より良くしていく事が必要だと思います」と利点を見出している。さらに「原作モノ、他の人に脚本を書いてもらった監督作など、現在進めているものがいくつかあります」と告白。世界を視野に入れた“次の一手”に注目していきたい。
(C)松竹ブロードキャスティング
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