【配信作品おすすめコラム:第15回】ウィル・フェレルが本領発揮!音楽映画としても上出来の爆笑サクセスストーリー!!「ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語」
2020年7月4日 11:00
[映画.com ニュース] 映画評論家・プロデューサーの江戸木純氏が、今や商業的にも批評的にも絶対に無視できない存在となった配信映像作品にスポットを当ててご紹介します!
6月26日からNetflixで配信が開始された「ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語」は、ウィル・フェレルが製作、脚本を兼ねる渾身の主演最新作。彼の新作は最近いくら全米でヒットしても日本ではなかなか劇場公開されず、半年から1年近く経ってひっそりとDVD化されるというのが定番になりつつあったので、ファンとしては非常に嬉しい。さらに、その出来がまた最高に素晴らしい。まさに“見たかったフェレル”の連続で、変化球も少なく、ストレートな笑いで徹底的に楽しませてくれる。
彼が今回選んだ題材は、欧州放送連合が毎年開催している“ユーロビジョン・ソング・コンテスト”(邦題の「~歌合戦」はちょっとないと思う)。超メジャーな実在の音楽イベントだが、各国代表の特色を活かしたマニアックなパフォーマンスが見られる、通好みの大会でもある。まずはこの題材のチョイスに唸らされる。それも、本家の完全バックアップを得て、真正面から堂々と、かつ半端なく大胆な、悪趣味ギリギリの茶化し方で“笑い”に仕立て、ナンセンスな爆笑サクセスストーリーとしてはもちろん、音楽映画としてもクオリティの高いエンタテインメントに仕上げた。ファッション業界を描いた「ズーランダー」(2001)や、テレビ報道の世界を描いた「俺たちニュースキャスター」(04)などと並ぶ、業界パロディコメディの新たなる傑作の誕生である。「ウェディング・クラッシャーズ」(05)、「ジャッジ 裁かれる判事」(14)のデヴィッド・ドブキン監督のバランス感覚抜群の手腕も見事だ。
アイスランド北部の漁村に住むラース(フェレル)の幼い頃からの夢はユーロビジョン・ソング・コンテストに出場して優勝すること。幼馴染みのシグリット(レイチェル・マクアダムス)とのデュオ“ファイア・サーガ”を組み、エントリーを続けて十数年、彼らは町の小さなバーで猟師たちの前で歌うだけの日々を送っていた。だが、そんな彼らに幸運が訪れる。アイスランド代表にエントリーしていた他の候補者が全員、ボートの爆発事故で死んでしまったのだ。事務局は仕方なく、スコットランドのエジンバラで開催される大会に“ファイア・サーガ”を代表として派遣する。ラースはここぞというときに、いつも大きな失敗を繰り返し、物笑いの種になってきた。でも、シグリットはそんなラースのことが大好きだった。今回もまたラースはへまばかりするが、シグリットの美声は本物で、どんなトラブルがあっても歌い続ける彼らの姿は感動を呼び、“ファイア・サーガ”は奇跡的に決勝に進んでしまう……。
図体ばかり大きくて大人になれない“でくの坊”を演じさせて右に出る者のないウィル・フェレル、久々の当たり役。作品によってはその巨漢のウザさや、ドジっぷりのクドさが、鼻についてしまうこともあるのだが、今回は北欧アイスランドの雄大な自然と神話性、さらに北欧ポップスのスケール感が彼の大きさにマッチして、冒頭から爆笑の世界に引き込んでくれる。そもそも彼自身、「エルフ サンタの国からやってきた」(03)で、本作にも登場する北欧の妖精エルフを演じたり、奥さんがスウェーデン人女優のヴィヴィカ・ポーリンだったりと、かなりの北欧通ということもあり、近年になく身体を張って大暴れし、歌も歌っての大奮闘を見せてくれる。
一方、一途なヒロイン、シグリットを演じて魅力的なコメディエンヌぶりを発揮するのはもはや大女優のレイチェル・マクアダムス。ドブキン監督作「ウェディング・クラッシャーズ」ですでにナンセンスコメディは経験済みの彼女も本気で観客を笑わせにくる。また、「ダウントン・アビー」シリーズや「美女と野獣」(17)での爽やかさをかなぐり捨てて、パワフルな歌唱力で魅了する優勝候補、ロシア代表のアレクサンダー・レムトヴを暑苦しく演じるのはダン・スティーヴンス。ラースのイケメンな父親を演じたピアース・ブロスナンもいい味を出しているし、「エージェント・ハミルトン」シリーズ(12)等のスウェーデンの名優ミカエル・パーシュブラントが見せる中央銀行総裁役での怪演も見逃せない。
キャストの熱演に加え、音楽性の高さがとにかく素晴らしい。音楽監督はアイスランド出身のアトリ・オーヴァーソン。本格的なミュージック・ビデオや派手な演出のコンサート・シーンで繰り広げられる、ABBAの新曲といってもおかしくないような、いかにも北欧ポップス風に作られた完成度の高い“ファイア・サーガ”のオリジナル楽曲の数々。公式MVもある“VOLCANO MAN”、コンテストで度々歌われる“DOUBLE TROUBLE”、故郷の町を歌い上げるクライマックの一曲“HUSAVIK”。どれもが圧倒的な見せ場となっている。実際に歌っているのはマクアダムスではなく、スウェーデンの人気歌手モリー・サンデーン。ほかにも音楽の見せ場は多いが、コンテストの出場者たちがパーティ会場でシェールの“ビリーヴ”やABBAの“恋のウォータールー”を次々と唄うソング・ア・ロング・シーンは、実際のユーロビジョン出場者たちが多数出演しており、インドのマサラムービーの良質なダンスシーンにも負けない楽しさだ。
現在各楽曲は、YouTubeなどでミュージッククリップが拡散され、映画だけでなく、ユーロビジョンそのものの話題、各アーティストの存在も世界的にさらに広がっている。その意味でも、この作品の全世界同時配信は大成功だったといえるだろう。
すでにNetflixをほぼホームグラウンド化しているアダム・サンドラーらに続き、アメリカンコメディの大物が配信を重視する傾向は今後さらに加速するだろう。フェレルやサンドラーなどの大物に限らず、Netflixは特に世界各国のドメスティック市場で人気のコメディのピックアップに注力し、成功を収めている。おかげで、これまで各地域限定だった多くの個性的な“笑い”が、世界中でほとんどタイムロスなく見ることができるようになった。これは本当に凄いことだと思う。
「ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語」はNetflixで独占配信中。
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