【「めまい」評論】現実と妄想の境界線を自在に描く高度な映画技法に“めまい”を起こす
2020年5月16日 18:00

[映画.com ニュース] 新型コロナウイルスの影響により、多くの新作映画が公開延期となり、映画ファンの鑑賞機会は減るばかりです。映画.comでは、「映画.comオールタイム・ベスト」(https://eiga.com/alltime-best/)に選ばれた、ネットですぐ見られる作品の評論を毎週お届けいたします。今回は「めまい」です。
世界の映画史において“サスペンス映画の神様”もしくは“帝王”とも称されるアルフレッド・ヒッチコック監督のミステリーサスペンス「めまい」(1958)は、物語が映像で語られる映画表現の面白さを堪能できる作品の一本だろう。
イギリス出身のヒッチコックは多くの映画監督に影響を与えたが、特に1950年代末にはじまったフランスの映画運動“ヌーベルバーグ”の中心的監督であるフランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダールらから支持を得て再評価された。その高度な映画技法を駆使した作風、しかも技術本位ではない心理描写に重きをおいた演出は際立っており、スティーブン・スピルバーグ監督やマーティン・スコセッシ監督らもその演出テクニックに影響を受けている。
ハリウッドでの1作目「レベッカ」(1940)から「裏窓」(1954)、「北北西に進路を取れ」(1959)、「サイコ」(1960)、「鳥」(1963)などとともに評価の高い「めまい」(128分)の原作は、フランスのミステリー作家、ボワロー=ナルスジャック(ピエール・ボワロー、トマ・ナルスジャック)の「死者の中から」で、ヒッチコックに映画化してもらうために書かれたとも言われている。
「めまい」の中でも特に有名なのが、ジェームズ・スチュワート演じる高所恐怖症の主人公ジャックが、螺旋状になった階段の上から階段の下を見下ろした時に急激に起こすめまいを表現したシーンだろう。キャメラがトラックバックしながら急激なズームすることで、めまいを起こしたような効果を生み、観客も一緒になって同じような感覚に襲われる。
さらにこの映画の特筆すべきところは、主人公の視点とともにその情緒不安定な心理と一緒になって物語の中に入り込んだような感覚におちいる作りとなっているところ。それは映画のタイトルデザインの第一人者であるソール・バスの手がけたオープニングからはじまり、カメラの動きやクローズアップ、レンズのフィルター効果、衣装や小道具にいたる色づかいや照明、役者の表情(視線)や髪型、しぐさまで、そして感情を表現したバーナード・ハーマンによる音楽(効果音)が一つになって、説明的な台詞ではなく、視覚的に物語や主人公の心理が描写されていく。
主人公の心理は、次第にこの世では不可能な性的イメージを求めるものとなり、妄想の中の美女あるいは死者を蘇らせようとするようなある種の偏執狂的な性的フェティシズムへと変化する。まるで主人公とともに観客も不安定なめまいを起こし続けているようだ。ヒロインを演じわけたキム・ノバクの肉感的な魅力やけだるい妖艶さもそんな心理を増長する。
ヒッチコックの映画は常に独特な「視点」=「カット」で描かれる。我々が見ている世界は果たして現実なのか、妄想なのか、夢なのか。現在のようなデジタル技術のない時代に、映像で語るその技法はもはや映画表現の古典となっており、その発想力、想像力には舌を巻く。見る者の心理も試される名作だ。
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