【中国映画コラム】アジア映画の現在と未来!「大阪アジアン映画祭」は、今の日本で最も注目すべき映画祭
2020年3月29日 11:00
[映画.com ニュース] 北米と肩を並べるほどの産業規模となった中国映画市場。注目作が公開されるたび、驚天動地の興行収入をたたき出していますが、皆さんはその実態をしっかりと把握しているでしょうか? 中国最大のSNS「微博(ウェイボー)」のフォロワー数277万人を有する映画ジャーナリスト・徐昊辰(じょ・こうしん)さんに、同市場の“リアル”を聞いていきます!
今回の話題は、3月6日に開幕し、3月15日に閉幕した「第15回大阪アジアン映画祭」。新型コロナウイルスが全世界に感染拡大し、日本では政府の自粛要請を受け、様々な大型イベントが中止、または延期の措置を発表しています。2月末には、大阪のライブハウスで集団感染が発覚。大阪アジアン映画祭の動向は、映画ファンだけでなく、一般の方々からも注目を集めていました。
「私たちは作り手と観客の触れ合いの場である舞台挨拶、Q&Aなどを割愛し、映画祭本来の願いである“上映”に尽力しました。私たちの力不足をお詫び申し上げます」
これは「第15回大阪アジアン映画祭」のオープニング上映前、上倉庸敬委員長が述べた言葉です。毎年3月上旬に開催される「大阪アジアン映画祭」は、アジア各国の最新作、新人監督作を中心にラインナップし、海外からの観客も増加している“日本国内最大のアジア映画イベント”に成長しています。新型コロナウイルスの蔓延という非常事態であっても、多くの観客が参加していましたし、改めて同映画祭の底力、そして魅力を感じさせていただきました。
「大阪アジアンは凄いですね! 平日昼の回でも満席なんて!」
ある映画関係者が、称賛の言葉を口にしていました。「舞台挨拶、Q&Aの中止」「新型コロナウイルスの感染拡大」という状況にかかわらず、こんなに観客が入るとは――私も正直びっくりしました。同映画祭のプログラミング・ディレクターの暉峻創三さんに話を聞くと「『大阪アジアン映画祭で選ばれた作品だから見に行こう』という観客が年々増えている。これは、大きな財産だと思いますね」と話してくれました。つまり、作品のファンというよりは“映画祭のファン”が育っているという証拠。映画祭が目指すべき最終的な目標であり、映画祭の“DNA”がファンを魅了しているのです。
第13回の特別招待作品部門に「僕の帰る場所」を出品した藤元明緒監督は、今回はインディ・フォーラム部門で新作短編「白骨街道」を披露しました。「大阪出身の僕は、毎年大阪アジアン映画祭を楽しみにしていますし、自分の目標となる場のひとつでもあります。ここは非常に独特で、魅力のある映画祭ですね。世界中で流行っている話題作や受賞作だけではなく、アジア映画の“今”と“未来”が体験できる映画祭なので、本当に最高なんです」と話していました。
今回、最も衝撃を受けたのは、海外監督の来日に関するエピソードです。新型コロナウイルス感染拡大を受け、各国は日本への渡航勧告を発表していました。一方、日本政府は3月9日から、中国(香港、マカオを含む)、韓国から訪れる人々への入国制限を強化。そんななか「大阪アジアン映画祭」は、舞台挨拶やQ&Aを中止しながらも、ゲスト招致自体はキャンセルしませんでした。登壇イベントが中止になったとしても、ゲストに映画祭の雰囲気を体験してもらいたかったんです。
ただし“入国拒否”となってしまえば、事態は更に厳しくなってしまいます。そこで「散った後」のチャン・チッマン監督と女優のジョスリン・チョイさん、「私のプリンス・エドワード」のノリス・ウォン監督は、早い段階から大阪を訪れていたようなんです。「多くのアジア映画を見たいし、映画関係者と色々お話ができる場所でもあるので、早めに来日しました」(チャン・チッマン監督)、「日本が大好き。登壇イベントができなくても、観客の反応が見たかった」(ノリス・ウォン監督)と皆さんが感動的な言葉を残していました。その対応に、暉峻さんも敬意を示しています。映画祭、そして映画のパワーは凄いと改めて考える機会になりましたね。
「私のプリンス・エドワード」は、昨年の金馬賞に選出された段階で中華圏の映画界から注目され、中国の映画評論家たちが年末に主催した迷影精神賞では、年間最優秀作品賞も受賞しています。近年、香港の「オリジナル処女作支援プログラム(首部劇情電影計劃)」から多くの傑作が誕生しました。日本で上映中の「淪落の人」もそこから誕生し、「第14回大阪アジアン映画祭」でも披露されました(上映時のタイトルは「みじめな人」)。「散った後」と同じく、「私のプリンス・エドワード」は、香港の“今”、そして香港に住んでいる人々の“現在”に焦点を当て、心の機微を絶妙に描きながら、自分の生き方を探し出すという物語が描かれます。複雑な社会環境のなか、ノリス・ウォン監督は、香港人をつぶさに観察し、現代の香港に生きる若者たちへメッセージを提示しました。
グランプリを受賞したのは、タイ映画「ハッピー・オールド・イヤー」(ナワポン・タムロンラタナリット監督作)です。この映画は、断捨離をテーマにしており、“捨てること”の意味を深く再認識させる内容です。出演者のひとりは「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」で注目を集めたチュティモン・ジョンジャルーンスックジンなので、劇場公開へと結びついた時には、是非注目してみてください。
そのほかの東南アジア作品も力作ばかりでした。暉峻さんによれば、現在海外進出を果たそうとする東南アジア作品の多くには、韓国資本が入っているようです。今回の映画祭で話題となったインドネシア映画「ヒットエンドラン」(オディ・C・ハラハップ監督作)をエントリーしたのは、韓国のCJエンタテイメント。ちなみに、韓国の映画会社ロッテも、何本かの東南アジア作品に出資しています。今後、この傾向によって、さらに面白い作品が出てくると思います。
もちろん、全世界を席巻した「パラサイト 半地下の家族」のおかげで、韓国映画への注目度は飛躍的に上がりました。今回のラインナップには、韓国で最も権威のある映画賞・青龍賞で「パラサイト 半地下の家族」をおさえ最優秀脚本賞を獲得した「はちどり」だけでなく、ホン・サンス作品のプロデューサーを務めてきたキム・チョヒの長編デビュー作「チャンシルは福も多いね」も。来るべき才能賞を獲得した「家に帰る道」(パク・ソンジュ監督作)、日本公開を予定している「君の誕生日」(イ・ジョンオン監督作)も素晴らしい作品でした。暉峻さんも仰っていましたが、それぞれが歴史上の事件を背景にし、事件に影響された人や社会を見つめて、良作を生み出しているんです。
さらに注目すべき点は、アジア同士の合作映画の存在。日中合作という言葉はよく聞きますが、個人的にはこれまであまり良い作品は生まれていないと思っています。ですが、今回の「大阪アジアン映画祭」では、優秀な合作映画が何本も上映されていました。特に言及しておきたいのは、青春映画を中心に撮り続けたトム・リン監督の最新作「夕霧花園(原題)」。オープニング作品として上映されましたが、トム・リン監督は、マレーシアの国民的女優リー・シンジエ、日本の阿部寛をキャストに起用し、見事な大作を完成させてました。
「白骨街道」のプロデューサー・渡邉一孝さんは、合作という手法について「良い企画があってから“合作”のことを考え始めた方がいい」と話しています。確かに日中合作に関しては、映画製作とは“関係のないもの”が影響しているせいか、なかなかうまくいっていない印象。現代の映画は既に国境を越えています。もっと純粋に“人と人の関係”によって作品を作ることができれば、良い“合作”が生み出せるのではないかと思っています。
暉峻さんは「(大阪アジアン映画祭は)日本国内の国際映画祭において、最も貧乏な映画祭のひとつ」と語りながらも「日本国内だけに頼っていてはいけない」と考えており、海外の政府からのサポートを受けています。独特の姿勢で毎年素晴らしいアジア映画を送り続けている「大阪アジアン映画祭」は、間違いなく今の日本で最も注目すべき映画祭です!
私が企画・プロデュースを務めているWEB番組「活弁シネマ倶楽部」では、今回「第15回大阪アジアン映画祭」の特別番組を制作しました。プログラミング・ディレクターの暉峻さんをはじめ、多くの監督陣が“アジア映画の今”を語っています。ぜひご覧ください!
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