池松壮亮、中国映画出演で確信した俳優としてのアイデンティティー

2020年3月20日 12:00


故郷・福岡で撮影に臨んだ池松壮亮
故郷・福岡で撮影に臨んだ池松壮亮

[映画.com ニュース] 俳優の池松壮亮が、チャン・リュル監督がメガホンをとる中国映画「柳川」に出演し、撮影を終えていることがわかった。今後も海外映画への出演が決まっており、30歳になる2020年は新たなステージへとステップアップする礎となりそうだ。だが池松本人は謙虚な姿勢を崩すことなく、どこにも慢心はない。それどころか、胸に秘めた“熱情”は高まるばかり。都内にある映画.com編集部を訪れた池松が、いまの気持ちを語った。

トム・クルーズ主演「ラスト サムライ」(03)で銀幕デビューを飾ってから17年、映画出演は50本を超えようとしている。昨年は「宮本から君へ」での熱演が評価され、第32回日刊スポーツ映画大賞、第93回キネマ旬報ベスト・テンなど、主要な映画賞の主演男優賞を受賞。改めて考える映画への思いは、「大きく構えるつもりはないんですが、でももう自分の人生と対等なものになってしまった。神様のように感じることもある一方で、映画にたくさん人生を振り回されてきたような気もします。映画をやっていなければ見なかったであろう闇、絶望を見てきましたけれど、愛情や欲望は底なしに深いですし、いろいろな要素が詰まっていますね」と明かす。

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チャン監督は、韓国を拠点に活動する中国人で「キムチを売る女」(07)、「春の夢」(17)などが日本で劇場公開されている。「柳川」は、ベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品された「福岡」(19)に続く、日本を舞台にした第2弾。中国で絶大な人気を残る女優ニー・ニー染谷将太主演「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」にも出演するチャン・ルーイーシン・バイチンが主要キャストとして参加。物語は、父の遺した遺産で静かに暮らす立冬は、性格が全く異なる兄・立春を日本への旅行に誘う。兄にスマホで動画を見せながら、その場所が柳川という地名であることを告げる。その名は立春がかつて交際していた女性・柳川と同じで、しかも彼女は現在、柳川で暮らしているという。こうして、柳川で再会を果たした3人は、くしくも同じ宿に宿泊。彼女は宿の主人・中山(池松)とも親しげだ……。

撮影は、タイトル通り福岡県柳川市を中心に行われた。福岡市出身の池松にとって、柳川近隣に親族が住んでいることもあり、馴染みの風景ではあったようだ。「今回面白かったのは、異国の目を通して自分が柳川という場所に触れる。そうすると異国情緒みたいなものなのかもしれないですが、すごく違った目で見つめようとするんです。どうして柳川を舞台に選んだのか最初は分からなかった。妻夫木聡さんが生まれて、オノ・ヨーコさんが生まれた町ですが、特別何かがあるわけではないんですよ。だけど、監督は『ここは日本のベニスだ!』と。それは言い過ぎなんじゃないかと思うんですけど(笑)。そういう、より純粋な目を通して、改めて自分のふるさとを見つめるというのは、なかなか興味深い経験でしたね」。

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製作スタッフのメインは中国人で、そこに韓国人と日本人が加わる混合部隊になったという。アウトプットの方法が異なるのは当然だが、そのなかで「スタッフも、俳優も、何というか、純情がありました。これが、自分が求めていたものなんだなあと感じました。僕自身、もう少し純粋に、自由に映画を作れるはずだという可能性を捨てきれないんです」という思いを抱く。それだけに、「これだけグローバル化が進んだ世の中で、日本だけで日本らしさ、日本の良さを見つめていくというのはもうとっくに限界が来ていると思うんです。そういう別の視点、視座を織り交ぜていかないと、自国を、自分自身を見出していくというのは映画というメディアの中では難しいんじゃないかと思うんです」とアイデンティティーの重要性を説く。

その考えは、なにも近年沸き上がってきたものではない。「それは僕の映画デビュー作『ラスト サムライ』のときに強く感じたことなんです。当時12歳だったのですが、『なぜこの映画を日本人が作れないんだろう?』と考えていたんですね。当時はお金の部分だろうなとか、そういうことでしか答えが出なかった。だからこそ今回、とても良い機会をもらえたと思っています」

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また、国籍もキャリアも異なるキャスト陣、スタッフ陣と触れ合うことで、ある思いにかられた。「今回の現場でだいぶ確信に変わったことなのですが、結局、人間の考えていることなんてたいして変わりはないということ。そこに育った環境や文化が乗っかっているだけ。もっと純粋な心を持って、誰かを思うとか、人の機微に思いを寄せるとか、そういう根源的な純粋なところに立ち返ると、結構通じ合えるものなんですね。撮影では、通訳を介してですが、なんとなく目を見ていれば言おうとしていることがわかる。その人のことをこちらが思えば、伝わるものだと。それが映画言語なのかはわかりませんが、そういったことで、まだまだやれることはあるんじゃないかと思いました」。

そんなことを常に考えてきた池松だけに、「僕のなかで今回、アジア進出みたいな気持ちは実はあまりないんです」と事も無げに言う。「単純に30歳になる、視野を広げてみようという感覚なんですよ。それは、少し離れた柳川に行くみたいな感覚とそう変わらないんです。今後はどんどんそうなっていくような気がします。今回も純粋なもの、自由なものを探した先に、たまたま中国映画と出合えただけですから。それに、ボーダーを引いているのはいつでも他の誰でもなく私たち自身だとも思っています」。

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それでは池松はいま、日本映画界に対して何を思っているのだろうか。

「自分もその一部であるのでとても答えづらい問題ではありますが、沢山インスピレーションをもらえる作品も中にはあります。何とか再建しようと踏ん張っている方々もいます。けれど日本映画の歴史という縦軸、世界の映画事情という横軸を見れば、今、日本映画は腐敗しきっていると答えざるを得ません。みんなでやんわりと映画というものの価値を落としてきたことの代償、長いあいだ問題を放置してきたことの代償だと思います。じゃあ今やるべき事は何なんだと日々考えていますが、とにかく変化を求めるなら真っ先に自分自身がリスクを冒していかなければならないと思っています。自分を安全な場所に置いて変化だけ求めるというのはとても無責任だと自分に言い聞かせています。目の前の問題は山積みです。とはいえ、僕がどう思ったところで映画は一人では成り立ちません。変化を求める人、志の高い思考を持った人たちと映画を共にしていきたいと日々切に感じています。映画が文化としてあった国に生まれて、その恩恵を受けたからには、取り返しに行きたいと思っています」。

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