劇場公開日 2019年9月27日

宮本から君へ : 映画評論・批評

2019年9月17日更新

2019年9月27日より新宿バルト9ほかにてロードショー

醜さからも愚かさからも目を背けさせない池松壮亮の強烈な存在感

痛くて、愚かで、熱い人間模様だ。度し難いほど醜い人間たちも出てくる。しかし、本作には目を背けることを許さない異様な引力が働いている。

原作者、新井英樹の漫画は良く言えば正直、悪く言えば露悪的かもしれない。本作もまた不快だと感じる観客は確実にいるだろう。しかし新井英樹は、醜さも含めてまるごと人間と向き合っている。本作はそんな原作漫画の精神を忠実に引き継いでいる。

不器用なサラリーマンの活躍譚を描いて好評だったTVドラマ版とは全くトーンの異なる本作で描かれるのは、壮絶にみっともない復讐劇だ。愛する女性を守れなかった宮本が、その不甲斐なさに押しつぶされたくなくて、思いつめて始める自分勝手な復讐でしかない。真利子哲也監督は、それを不器用な男のロマンティシズムとして描かない。本作は復讐のカタルシスともヒロイズムともまるで無縁で、突き放した態度に貫かれている。

本作の事件は、日本社会に根深く残る体育会系的コミュニケーションから端を発するが、観ていて苦しくなるのは主人公の宮本もまたそうした価値観の持ち主であること。取引先との飲みの席に彼女を同席させねばならないとは酷い話だが、現にそういうことはある。問題が根深いと思うのは、これが一般的な企業の営業マンたちであること。ピエール瀧が怖い顔して出演しているが、決してヤクザなどの特別な世界の住人ではないのだ。

愚かな言動ばかりにもかかわらず、宮本から目を離せないのは、魂を振り絞るかのような池松壮亮の名演のおかげもあるが、そんな愚かな一面を我々もまた抱えているからだ。宮本はあまりにも正直に愚かさをさらけ出せてしまう。そのせいで、愚かなはずなのに、時折誠実にすら見えてしまう。

世界は理不尽で、社会には許しがたい人間がいる。しかし、我々もまたそんな社会の一員であり、情けない主体を抱えて生きているのだということを忘れないために、こういう映画はつくられるべきなのだ。

杉本穂高

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