第70回ベルリン映画祭、コンペ最高賞はイラン映画 他部門で諏訪敦彦、想田和弘監督作が表彰&受賞
2020年3月1日 16:15

[映画.com ニュース] 第70回ベルリン国際映画祭の授賞式が、現地時間の2月29日に開催され、コンペティション部門の最高賞、金熊賞をモハマド・ラスロフ監督のイラン映画「There is No Evil」が受賞した。ラスロフ監督は現在イラン政府により拘留中で、プロデューサーふたりと、監督の娘で女優のバラン・ラスロフが登壇した。
審査員長のジェレミー・アイアンズは本作について、「4つのストーリーを通して、権威的社会とそれに抵抗する人々の姿を描き、ヒューマニティを引き出している。我々が人生において下す選択や、その責任について問いかける作品だ」と賞賛。監督のかわりにスピーチをしたカベ・ファルナム・プロデューサーは、「映画には壁はない。ディクテーターのみが壁を作るのです。今日監督の席は空席になっていますが、わたしたちみんなと共に監督はここに存在すると感じます。(熊のトロフィーを見て)この新しい友人が、モハマドを抱擁してくれるでしょう。彼に、あなたはひとりではないんだよ、と伝えたいです」と語り、大きな拍手を浴びた。さらに記者会見では、プロデューサーの携帯を通して監督がライブで喜びを伝える一幕もあった。
審査員グランプリに輝いたのは、サンダンス国際映画祭でもスペシャル審査員賞を取った「Never Rarely Sometimes Always」。ペンシルバニアに住む17歳の少女が、はからずも妊娠し、中絶をするためにニューヨークまで旅をする。記者会見でエリザ・ヒットマン監督は、「これは女性監督によって作られた、フェミニスト的な作品です。中絶をするために遠いところまで旅をしなければならないという状態は、とても非人間的なこと。国際的に広く観客に訴えかけることを望みます」と強調した。
男優賞は、「Hidden Away」で実在したイタリアの画家、アントニオ・リガブエに扮したエリオ・ジェルマーノに。女優賞は評価の高かったクリスティアン・ペッツォルト監督のロマンティック・スリラー「Undine」で、水の精霊ウンディーネを下敷きにしたヒロインに扮したパウラ・ベーアにわたった。
監督賞は、批評家の星取り表で評価の高かったツァイ・ミンリャンではなく、ホン・サンス(「The Woman Who Ran」)へ。脚本賞は、ぎくしゃくとした人間関係を、ヨルゴス・ランティモスを彷彿させるような手法で描き、イタリア映画の新しい波を感じさせたディチェンゾ兄弟(「Bad Tales」)に授与された。
さらに今年は芸術貢献賞が、ロシアの長尺プロジェクト「Dauシリーズ」の1編、「Dau. Natasha」を手がけた撮影監督、ユルゲン・ユルゲスに送られた一方、70周年ベルリナーレ賞が、SNS社会に対するオフビートで風刺の効いたコメディ「Delete History」を描いたブノワ・デレピヌとギュスタブ・ケルベルンの監督コンビに与えられた。
今年新設されたエンカウンター部門では、写真家アンダース・エドストロームとC・W・ウィンター監督が京都の村を舞台に、人々の生活を8時間の長尺にまとめた「仕事と日(塩尻たよこと塩谷の合間で)」が作品賞を受賞。印象的な撮影による、忘れがたい映画的経験を与えてくれる」ことが評価された。

日本がらみでは、ジェネレーション14プラス部門に出品された諏訪敦彦監督の「風の電話」が、スペシャル・メンションを受ける快挙を成し遂げた。すでに帰国した諏訪監督に代わり、脚本家の狗飼恭子が登壇し、監督の感激のコメントを読み上げた。また、フォーラム部門に出品された想田和弘監督のドキュメンタリー「精神0」がエキュメニカル審査員賞を受賞した。
今年のコンペティションは、ベルリン映画祭らしい政治的テーマを打ち出した作品が少なかったものの、結果的には、金熊賞と審査員グランプリの両作品により、伝統的な映画祭のカラーが保たれた印象だ。(佐藤久理子)
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