逃げた女 劇場公開日:2021年6月11日
解説 韓国のホン・サンス監督と、公私ともにわたるパートナーである「夜の浜辺でひとり」のキム・ミニの7度目のタッグとなったドラマ。2020年・第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞した。5年の結婚生活の間、夫と一度も離れたことのなかったガミ。そんな彼女は夫の出張中にソウル郊外の3人の女友だちと再会する。バツイチで面倒見のいい先輩のヨンスン、気楽な独身生活を謳歌する先輩のスヨン、そして偶然再会した旧友のウジン。ガミは行く先々で「愛する人とは何があっても一緒にいるべき」という夫の言葉を執拗に繰り返した。親密な会話の中に隠された女たちの本心、そしてそれをかき乱す男たちの出現を通じ、ガミの中で何かが少しずつ変わり始めていく。キム・ミニがガミ役を演じるほか、ホン・サンス作品常連俳優のソ・ヨンファ、クォン・ヘヒョ、「はちどり」 のキム・セビョクらが顔をそろえる。
2020年製作/77分/G/韓国 原題:The Woman Who Ran 配給:ミモザフィルムズ
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ホン・サンス監督の映画にはいつも自宅の半歩くらい外を徘徊し続けているようなご近所感がある。舞台がどんな国や地域でも一向にペースを崩すことなく、独特の間合いで”終わらない会話”が繰り広げられていく。その特色は本作でも同じ。しかし会話劇だからと言って、一字一句を聞き逃すまいと耳をそばだてる必要はない。もっと柔らかな気持ちで、本作から徐々に伝わってくるもの、感じ取れるものを味わうべし。そうやって3つの場面、3つの関係性、3つの会話が蓄積されていくことで、心の内側にストーリーの輪郭線や主人公の秘めたる気持ちが徐々に像を結んでいくはずだ。ちなみに3つの場面は雑然と並んでいるようでうっすらと同期性があり、そこはかとなくデジャブ感をかき立てられたりもする。このリアルな夢を見ているような感覚もまたサンス作品らしさ。本作が終わる頃、結局いつも通り、サンスワールドの虜になってしまっている自分に気づくのだった。
2021年5月12日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会
Hong's films usually lack traditional movie conflict. Often such is implied through the overall prose of the seemingly uneventful moments on screen. Shots are artfully coincidental. Zooms onto unplanned occurrences in frame, such as a cat's yawn, prove as momentous as the scripted dialogue. Everyday items take reoccurring roles, such as the chime of an auto-lock door which punctuates some scenes.
2022年11月19日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
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はて、何を観せられているのか? そして、おそらくガミのことなんだろう けど、何から逃げたのか? 直感から文脈を組み立ててみることに。 ガミは離婚してないのかもしれない。 「愛する人とは何があっても一緒にいるべき」 が理由で。先輩や知り合いと話をすることで、 その決断を正当化したいと思ったのでは。 ヨンスンにあまりにも男っ気がない、 あるいは同居人との関係を疑う始末。 お盛んなスヨンには元気をもらい、 むしろ背中を押される。 ウジンとは想定外だけど、押された背中は、 かつての彼氏、チョン先生に向いた。 喫煙所で食ってかかる様子や戻って再び 映画を観るガミが愛おしい。 あと、三人それぞれのシーンの中で現れる 男性たちが興味深い。泥棒ネコ呼ばわりする 野良猫に餌をあげることに注意する男性、 一度の関係が断ち切れず逆ギレ状態の男性、 面倒くさい鼻持ちならない男性(チョン先生)。これを見てると、女性同士の穏やかな シーンに男性が割り込むことでざわつく 対比がコミカルにも思えた。 とにかく、りんごが食べたくなってきた。
2022年5月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD
ホン・サンス監督作品は「それから」に続いて2作目の鑑賞。 主人公のガミは、その後、家に帰ったのでしょうか。それともそのままどこかへ「逃げた」のでしょうか。 おしゃれな外車に乗って、いいお肉を持参して訪ねてきたところを見ると、今の生活は決して悪くなく、経済的に恵まれているであろう主人公のガミ。でも、リップサービスなのか、それぞれの女友達のお宅で「私もこんなところに住みたい」と漏らす。パートの仕事はしているけれど、身が入らない。先輩たちは独身で大変だけれど、自分の力で人生を切り開いている。一方、ガミは自分で人生を決められないもどかしさがあるように見えます。 夫と仲はいいようだけど、「5年間毎日一緒」「妻の友人のことをよく言わない」ところを見ると、束縛の強い夫に息苦しさを感じているのかもしれません。 この映画では、小さな動物たちがズームアップされます。 牛や野良猫のエピソードでは、地球上で人だけが「えらい」のか、本来、人と動物は対等なのではないかという示唆が含まれていると思います。ベジタリアンになりたくても、人間のエゴでお肉を食べてしまうというエピソードも、経験があるのでよくわかります。 また、マウンティングする鶏の話は、優位を誇示したがる人間の男性を示唆しているのでしょう。 ガミは今の安穏とした生活から「逃げた」のか、それとも自分の力で人生を開拓することから「逃げた」のか。最後は観客に丸投げされるので、いろいろな想像が膨らみます。「え~これで終わっちゃうの~」と言いたいところですが、ほかの作品も観てみたくなる不思議な中毒性がありました。