タランティーノが明かす「ワンハリ」オーディション秘話「ブルース・リーになりきってみろ!」
2020年1月21日 10:00
[映画.com ニュース] 第77回ゴールデングローブ賞では最多3冠に輝き、第92回アカデミー賞では作品賞を含む10部門へのノミネートを果たした「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」。メガホンをとったクエンティン・タランティーノ監督はこのほど、ニューヨークのクロスビー・ストリート・ホテル(CROSBY STREET HOTEL)で行われた同作の特別上映会に出席。上映後には、Q&Aに参加し、製作秘話を明かしてくれた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)
レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットという2大スターが初共演を果たし、全米を震撼させたシャロン・テート殺人事件を軸に、1969年のハリウッド黄金時代に秘められた光と闇を描き出す。ディカプリオが人気のピークを過ぎたテレビ俳優リック・ダルトン、ピットがリックを支える付き人でスタントマンのクリフ・ブースを演じ、マーゴット・ロビーがテートに扮している。
物語のバックグラウンドを担う69年といえば、リックだけでなく、ジョージ・マハリス、タイ・ハーディン、ジョージ・ハミルトンら、厚手のセーターを着た“男臭い主役俳優”が多かった時代だ。ところが、彼らはなんの予告もなく、突如テレビや映画界から姿を消していった。その後に台頭するのが、ドン・ジョンソン、マイケル・ダグラス、ピーター・フォンダといった“ヒッピー世代”。彼らの存在によって、リックのような俳優たちは「自らの身の置き場がない」と感じ始めた。
「僕は、70年代のロサンゼルスの番組を見て育ったんだ。だから、70年代当時の番組や俳優たちを皆知っているが、僕より20歳以上も若い人々は、彼らのことを全く知らない。番組のタイトルを伝えたところで、どんな番組かもわからない。ジェームズ・ガーナーが出演していたテレビドラマ版『マーベリック』と言っても、25歳くらいの人たちは、僕が何を言っているのか理解できないだろうね。成功した『マーベリック』でさえも、(今は)若者に知られていない状況なんだ」
劇中で起こる出来事は、2月8、9日、そして、テートがマンソン・ファミリーに殺害された8月9日に集中している。まず、2月の2日間をチョイスした点について、大きな意味があったのだろうか。
「実は2月であれば、どの日でも良かったんだ。もしかしたら、3月でも良かったかもしれない。ただ、ロサンゼルス・タイムズ紙のカレンダーセクションには、2月9日にロマン・ポランスキーのインタビューが記されていた。彼は、その日に取材を受けていたんだ。そのインタビューとともに、(当時公開されていた)『サイレンサー 破壊部隊』のシャロン・テートとディーン・マーティンの写真も掲載されていたね。また、シャロンは8月に殺害されたわけだが、ちょうど2月頃であれば、自分が子どもを宿していたのを知っていた、もしくは知らなかった――そういう時期でもあったからだ」
テート役のロビーとの話し合いでは、ある重要なことを決めたという。
「あるカフェで彼女に会った時、まだ脚本も渡していなかったし、どんなストーリーかも伝えていなかったんだが、『シャロン・テートは知っているか?』と聞いてみたんだ。彼女は『シャロンは女優で、ロマン・ポランスキーと結婚していたけれど、マンソン・ファミリーによって殺されたわ。シャロンの写真を見たことはあるから、どのような顔をしていたかはわかるけど……。実際、シャロンがどんな人物だったのかはわからない』と答えたんだ。そこで僕は、彼女を自宅に呼び、脚本を読んでもらった。マーゴットの『シャロンのことは、どんな人物か知らない』という言葉に、僕らは(用意していた)“返答”を変えなけばいけないと気付かされたんだ」
ロビーの発言こそ、世間の人々が持つシャロン・テートのイメージ。タランティーノ監督は、あるアプローチを実践することにした。
「シャロンを映画の登場人物らしくしたわけではないし、彼女を含めた大きなストーリーの展開を考えたわけでもない。あえて、シャロンの振る舞いや行動を通して“彼女が存在していた”ということを描いてみたんだ。つまり観客には、シャロンがある平凡な1日のなかで、どのように用事を済ませていくのかを見てもらいたかった。だからこそ、シャロンの振る舞いや行動を理解したうえで『どのような人物だったのか?』というエッセンスを掴むことが重要だった。ドラマチックに演じてもらうというよりも、彼女の日々の振る舞いをとらえる――ある意味、良心を持つ人の1日を描いたんだ」
本作では、ディカプリオ、ピット、ロビーだけでなく、脇を固める俳優陣の好演にも注目したいところ。マンソン・ファミリーのキャストを決める際は、女性陣にプッシーキャットとスクィーキー、男性陣には「対決ランサー牧場」の主役ジョニー・マドリッドと請負人のボブ・ギルバードを演じてもらったうえで配役を決定し、その後、ワークショップを実施。さらに、タランティーノ監督は、ブルース・リーを演じたマイク・モーに関するユニークなエピソードを披露してくれた。
「ウィスコンシン州で道場を開いていたマイクを、オーディションに2度呼び寄せていたんだが、あえて3度目を主要キャストとの脚本読み合わせの日に行ったんだ。当日のマイクは、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、アル・パチーノが次々と部屋に入ってくると、僕の顔を見て『一体全体、どうなっているんだ?』と聞いてきたんだ。だから『この役は、君が望んだんたろ。ブルース・リーになりきってみろ!』と言ってやったよ(笑)」
トークの終盤には、「キル・ビル」「キル・ビル Vol.2」「イングロリアス・バスターズ」「ジャンゴ 繋がれざる者」「ヘイトフル・エイト」でもタッグを組んだ撮影監督のロバート・リチャードソンとの対話を明かした。
「僕とロバートは、本作を“1969年のジャンル映画”のようにはしたくなかった。実際に“1969年当時に撮影された映画”のようにしたかったんだ。これまではジャンル、サブジャンルからのアプローチをしていて、マカロニ・ウェスタンを手がけるのであれば、“マカロニ・ウェスタンのようなセット”を作り上げてきた。だが、今回はゴージャスなドキュメンタリーのように見せたかった。僕がこの時代に発見したベストな映像は、映画ではなく、Super 8を使用した誰かが、サンセット大通りを舞台に撮影したものだ。本作は、そんなSuper 8の映像を、テクニカラーとコダックを通して複製しただけなんだ」
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
【史上最高と激賞】人生ベストを更新し得る異次元の一作 “究極・極限・極上”の映画体験
提供:東和ピクチャーズ
犯罪が起きない町で、殺人事件が起きた――
【衝撃のAIサスペンス】映画ファンに熱烈にオススメ…睡眠時間を削ってでも、観てほしい
提供:hulu
映画料金が500円になる“裏ワザ”
【知らないと損】「映画は富裕層の娯楽」と思う、あなただけに教えます…期間限定の最強キャンペーン中!
提供:KDDI
予想以上に面白い!スルー厳禁!
【“新傑作”爆誕!】観た人みんな楽しめる…映画ファンへの、ちょっと早いプレゼント的な超良作!
提供:ワーナー・ブラザース映画
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。