近浦啓監督が「憧れの存在」と撮り上げた長編デビュー作が公開 藤竜也「脚本に気迫を感じた」
2020年1月18日 11:00
第69回ベルリン映画祭に出品された日中仏合作映画「コンプリシティ 優しい共犯」に主演する藤竜也が、新鋭・近浦啓監督と本作について語り合った。
近浦監督の長編デビュー作となる本作は、家族の期待を背負いながら技能実習生制度で日本にやってきたものの、不法滞在者となってしまった中国人青年チェン(ルー・ユーライ)が、異国の地でもがきながら生きていく姿を描いた人間ドラマ。藤は、主人公が身分を隠して働くことになる、山形のそば屋の職人・弘を演じている。日本公開に先駆けて、ベルリン国際映画祭、トロント国際映画祭、釜山国際映画祭などでも上映され、絶賛の声を浴びた。
「僕にとっても憧れの存在」と語る近浦監督が2013年に発表した短編映画「Empty House」の主演も藤竜也だった。「もうただただ映画少年というか。目の前で実物の藤さんを見ることよりも、カメラのファインダーから藤竜也を覗けるということに幸せを感じていました」という近浦監督。それだけに今回の長編初監督作は「藤さんでなければこの映画を撮るつもりはなかった」と語るほどに、藤との再タッグを熱望した。だが常々、藤は「出演を受けるかどうかは脚本で決める」と公言しているだけに、近浦監督も「当時を思い出せば、とにかく藤さんが映画に出てくれないと生きていけないという思いで必死に脚本を書きました。だからお返事をいただく時は、合格発表を待つような気持ちでした」と述懐。その言葉に応えるように藤も「読んでみて、この脚本が映画になりたいんだという気迫を感じましたよ」と笑顔を見せる。
本作には、藤が演じるそば職人・弘の亡くなった妻役として「愛の亡霊」をはじめ、数々の作品で共演してきた吉行和子が“特別出演”している。「製作部の人たちからも、わがままを言わないでくださいと言われてしまいましたが、ここは吉行和子さんじゃなきゃ駄目だと言って…。写真だけでも使わせてくださいと、吉行さんの事務所にお願いに行きました」と振り返る近浦監督。
キャストだけでなく、スタッフにも近浦監督のこだわりが伺える。本作が長編監督デビュー作となる近浦監督のもとに、是枝裕和作品などで知られるカメラマンの山崎裕や、美術の部谷京子ら一流のスタッフが集結している。「やはり映画を1本撮るのは本当に大変なこと。次はいつ撮れるかなんて誰にも分からないから、自分が後悔しないようなチームを作りたいというのがありました。これは僕にとって初めての長編映画なので、まわりを熟練の技術スタッフに支えていただきたいという思いが当初からありました」。
一方の藤も、そんな近浦監督に全幅の信頼を寄せているようだ。「撮影は一カ月でしたが、近浦監督はそれこそ何年もこの映画の準備をやってきたわけですから。彼は雇われ監督ではない。撮影現場に入った時にはもう戦場に入ってきた監督ですよ。その佇まいは相当なもんで、存在感はすごかった。だから手練れのスタッフもみんな監督をリスペクトして、監督のビジョンを叶えようとしたわけですよ」。
毎回、徹底した役作りを行うことで定評がある藤。本作でも、昔気質のそば職人を演じるにあたり、一カ月ほど前に撮影場所の山形に入り、20日ほどかけてそば打ちを徹底的に特訓したという。「言ってみれば不器用なんですよね。そこの場に立てるようになるまでが苦労するんです。ワッと出来る人もいるかもしれないけど、僕はそういうタイプじゃないですからね」と語る藤は、「やはり映画だからそれだけのことをやらせてくれるんですよ。実際の話、それだけ時間もかかるし、お金もかかるからね。でも、だからこそ映画っていいんですよね」としみじみ付け加えた。
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