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河瀬直美監督の特集上映が開催 五輪公式映画への思いも語る

2019年12月25日 06:00

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河瀬直美監督の初期作から「Vision」までを紹介
河瀬直美監督の初期作から「Vision」までを紹介
photo by Dodo Arata

[映画.com ニュース] 長編第1作「萌の朱雀」(1997)でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞、その後国内外で高い評価を集める河瀬直美監督の初期短編作から「Vision」(2018)まで、31本を紹介する特集上映「映画監督 河瀬直美」が、東京・国立映画アーカイブで開催中だ。上映作品の多くは現存する原版から最良のフィルム、デジタル素材を作成し、「光」はバリアフリー上映、「2つ目の窓」では多言語(英・中・韓)字幕つき上映を実施。東京2020オリンピック競技大会の公式映画を手掛けることでも話題を集める河瀬監督に話を聞いた。

--昨年11月にパリのポンピドゥ・センターで行われた特集上映に続く、大規模な企画ですね。

去年のパリの上映と同規模で国内では初。オリンピックの公式映画を監督する前に、こういった形で河瀬直美という作家を見ていただける機会があるということは、タイミングとしてすごく良かったな、ありがたいことだと思っています。

--18プログラム、31作品が上映されます。時折ご自身の過去作を見返されることはあるのでしょうか?

あまりありませんね。作り続けているので、その時その時の作品は、セリフも構成も全て覚えていますが、公開したらほとんど見ていません。今回、フィルムをもう一度焼きなおす際に、見返したものはあります。是枝裕和監督との作品「現(うつ)しよ」(96)は久々に見ました。これは「萌の朱雀」の前、私たちが世界に出て行く前に行っていた往復書簡です。自分たちの本当の眼差し。懐かしいと同時に、これから本気で映画をやろうとしている若い人たちには、是非見ていただきたいです。

--河瀬監督ご自身が、映画作家を職業にしようと決意されるきっかけとなった作品は?

23歳の時に作った「につつまれて」(92/本企画第2プログラムで上映)です。見てくださったお客様の態度が全く変わったのです。それまでの作品は、「学生さんで映画撮ってるんだね、すごいね」というくらいの反応でしたが、「につつまれて」は、深く感じ取ってもらうことができて、「そんなこと考えていたんだね」と、私が見せない部分を映画によって見て観てもらえた。映画が人間と人間を繋いでいくものだとわかって、映画作家として生きていこうと思いました。

--もし映画監督の道を選ばなかったら、どんな職業に就かれていたと思いますか。

建築家になりたかったんです。街作りのように、現実の世界に形あるものを残したくて。映画は心の中のもの、ドキュメンタリーであれフィクションであれ、現実のものとは違うものを作っていると感じています。

--近作「2つ目の窓」(14)のインタビューで、「映画を撮ることが使命のように感じるようになった」と発言されていたのが印象的でした。

「2つ目の窓」は私の第2のターニングポイントで、養母が死去した直後に作った作品です。自分を持ち続けた若い時代と、自分を見つめながらわが子を授かったとき、そこが大きなターニングポイントになっています。そして、養母がいなくなったことで、次の世代につなげていくことを考え、自分というものはあるけれど、役割として映画をこの世に誕生させるという思いが強くなりました。これはある取材で指摘されたのですが、「2つ目の窓」以降のタイトルがシンプルになっている、と。そういうことも、変化のひとつだと思います。

--東京2020オリンピック競技大会の公式映画監督に選ばれました。

東京がオリンピックに立候補すると報道された時、私50歳になってる、ちょうど撮れるかもな……なんて思っていました。実は私にとってオリンピックはとてもモチベーションが高いものでした。子供のころからスポーツが大好きで、自分もアスリートだったからです。プレイヤーとしてではなく、指導者としてバスケに関わっていきたいとずっと考えていました。スポーツの祭典という意味では最高峰の催し、それを記録できるなんていいなと。あの時バスケをやめて、映画に進んだ自分が30年かかってここまできて、アスリートとしてではなくまたスポーツに出合えるということが、すごくうれしい。このために映画をやってきたんじゃないかと思えるほどでした。

--まるで運命のようなお話ですね。

そうなんです。もし20年早く生まれていたら、70歳だからできないと思うのです。遅く生まれていても、30代だから撮れなかった。もう私が生きているうちにはオリンピックは日本では開催されないでしょうし。

--現段階で、取り組まれていることをお聞かせください。

選手はまだ決まっていないこともあり、撮影は開始していませんが、協会にいらっしゃる元アスリート、元メダリストの取材を始めました。先日IOCに提出した企画書では、オリンピックのみならず、始まる前も、終わってからも、できる限り時間をかけて取材を行い、記録してゆくものを大切にしたいと書きました。アーカイブとして未来永劫残るような作品にしたいと思っています。

--アスリートの皆さんは、普段一緒に仕事をされる映画の世界とは異なる世界で生きる方たちですね。

そうですね。スポーツをやっている方は、嘘偽りがなく、人間性を高めるということの上に、スポーツがあると考えてらっしゃいます。勝つことはもちろん、人間としていかにあるべきか、それが一番大事なんだ、と。どの競技でも勝つことは目標、でも目的は別にあるのです。その話を聞いて励まされ、元気になります。スポーツが人を元気にするというのは、そういうところだと思います。

--現代の日本映画の女性監督のひとりとしても、河瀬監督のお仕事や動向は注目されています。

Vision」を皮切りに、最近フランスの人たちとの仕事を積極的にするようになりました。フランスの女性たちは、女性であることに対しての自負があると感じます。日本人の表現の仕方とは異なるのですが、闘わなくても美しくあり、ちゃんと言葉を発することができる。それはすばらしいこと。若くても中堅でも、歳をとっていても性差というものは必ずある。私は与えられた性をあたりまえのこととして、高めていくことに共感します。その中に作品づくりがあれば、それはとても幸せなことかもしれない。また、社会にはまだまだ女性に厳しい部分があるかもしれませんが、時に失うこともまた、次のステップにつなげられるはずなので、自分自身としてがんばりたいです。

来年、ユネスコのオードレ・アズレ事務局長と、なら国際映画祭でアフリカの女性監督たちと一緒に行うワークショップのプロジェクトをスタートします。アズレさんは、才能があっても表に出られない女性たちの環境を整える立場。私は、皆さんとコラボできる幸せな場を創出しようと考えています。アフリカの女性たちにとって、生涯忘れられない時間となる、新たに生まれてくる何かがあれば。アズレさんは様々なことを柔軟にできる方。闘わなくても柔軟であれば仲間は増えますし、反発しあうエネルギーを受け入れることができる。柔軟であることは素晴らしいこと。とにかく結果を出せば、時間は掛かるかもしれませんが、継続できると思うのです。

特集上映「映画監督 河瀬直美」は、12月24~27日、1月4~19日に東京・国立映画アーカイブで開催。会期中は河瀬監督やゲストによるトークイベントも多数実施される。月曜休館。

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