多様化する女性の幸せ描く「パリの家族たち」監督が注目する“母親という権力”
2019年5月24日 14:00
育児に不安を抱える大統領、シングルマザーのジャーナリスト、親離れできない息子を持つ舞台女優、無責任な恋人の子を妊娠した花屋、認知症の母の介護に悩む小児科医、母という存在に偏見を持ち、独身を謳歌する大学教授ら、パリで様々な人生を送る女性とその家族の姿から、多様化する現代社会での幸せの在り方を探る映画「パリの家族たち」が5月25日公開する。監督は実在の高校の問題児クラスの変化を描いた「奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ」で注目を集めたマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール。来日したマンシオン=シャール監督に話を聞いた。
「母親という存在は、人間にとっていちばん社会的なものだと思うのです。私たちがなぜ今あるのか、どのように人と関わるのか……そこには母親との関係が大きく影響していると思います。そして、子どもがいる場合はその影響が次の世代に渡っていくと思うのです。そういう意味で、この世界で命が循環し、その中で同じ間違いを繰り返すこともある。母親との関係はある種の神秘、ミステリーだと思うのです。今作ではそれを探っていきたいと思いました」
「私は母親という存在が怖いものだと考えます。子どもに対する権力が大きすぎ、何か間違ったことをすれば、その子どもだけでなく、その次の世代にもそれが伝わってしまう恐ろしさがあるのです。そして、私たち女性は、父親のことを簡単に批判します。それが正しい場合もありますが、それは母親が自分の力を父親に分け与え、共有しない、ということでもあると思います。この映画の中でのある女性が、『母親が一番なんでもわかっているんだから』と言うセリフがあります。同じような考えを持つ人は多くいると思いますし、そう言われて育てられたからだと思うのです。また、社会でその力を乱用する人もいるのです」
「私は母親になるということでは、どんな女性も皆平等であるとことを描きたかったのです。自分はどうなるのか、それはなってみないとわからない部分があります。この大統領は、非常に知的な人物で、予期しない出来事は好まない。全てをコントロールしたい人。しかし、子どもの前ではそのコントロールを失ってしまう。そんな母性の神秘的な部分を描きたかったのです」
「そうですね、例えば3人姉妹の母親はかなり意地悪で、子どもたちから母親らしくなかったと非難されます。どのキャラクターもある意味で批判されるところがあると思うのです。逆に言うと、パーフェクトな母親というものはなくて、皆どこかしら、非難されるところがあると思うのです。そして、母親でなくとも、母の葬式を計画する娘、食事中に授乳する女性に反抗してわざと胸を出す女性など、ちょっと毒を持ったリアルな女性を描きたかったのです。一方で、理想的に描いたのは大統領の母です。誰に対してもジャッジしない、非難しない、忍耐強い女性です」
「母親として理不尽な思いをしたことはありません。例えば妊娠したり、子が生まれて仕事を少し休まなければならないということは、どんなに理解があるパートナーがいても、そのパートナーには起こりえないことなので、それはフェアじゃないなと思います。そして、母親になることによって、キャリアにストップがかかることはあります。子どもの面倒を見るために、時間が割かれますし。映画の仕事をしている女性は、1作目を作ったら、次は脚本を書くようになる。それは家でできることですから。しかし、そういうことは他の仕事でも可能でしょう」
「日本のことはわかりませんが、アフリカやアラブ諸国と比べると、フランスは最もアンラッキーな国ではないです。フランスの女性の参政権も第2次大戦後に得られたものなので、そんなに大昔からあったわけではありません。現在ももっと均等であったほうが良いこと、改善されるべきことはたくさんあります。10年ほど前に、私自身も小さなグループを立ち上げ、フランスの女性映画人の中で小さなネットワークが生まれています。お互い助けられるかどうかは別として、一緒にいて話し合ったり、社会や生活で感じる問題について声を上げはじめています」
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