9・11の舞台裏を描いた「バイス」 堀潤、戦争を止められなかったメディアの反省を語る
2019年3月18日 17:17
[映画.com ニュース] 「マネー・ショート 華麗なる大逆転」のアダム・マッケイ監督、主演クリスチャン・ベール、製作を手掛けたブラッド・ピットが再結集した映画「バイス」のトークイベントが3月18日、都内で行われ、元NHKアナウンサーのジャーナリスト・堀潤氏と、映画評論家の松崎健夫氏が登壇した。
アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権で強大な権力を握り、“影の大統領”と言われた副大統領ディック・チェイニーを描く社会派エンタテインメント。大幅な肉体改造を経てチェイニーを演じ、第76回ゴールデングローブ賞(コメディ/ミュージカル)主演男優賞に輝いたベールのほか、チェイニーの妻リン役のエイミー・アダムス、ラムズフェルド国防長官役のスティーブ・カレル、ブッシュ大統領役の「スリー・ビルボード」のサム・ロックウェルという豪華俳優陣が出演している。
劇中のチェイニー副大統領のお面をつけて登場した堀氏は、本作の感想を「驚かされたり笑わされたり、怒りがこみ上げたり、不信感に苛まれたり……感情を揺さぶる作品」と明かす。アメリカの同時多発テロ事件が勃発した2001年はNHKの入社1年目だったそうで、「かつての日本の報道機関は(戦争の)抑止になれたのか、(実は)機能していなかったんじゃないか。僕も含めて、国際情勢が動いている中で、なぜもっと感度を上げられなかったのかという深い反省がありますね」と当時の状況を語る。
大学時代は大日本帝国や独ナチスのプロパガンダを研究していたといい、「情報というものは隠されるし、歪められるし、自由自在に扱われて皆さんの前に投げかけられる。今も昔も変わっていない」と解説。重ねて「私は『自分が見た世界ですら物語だ』と思うようにしています。必ず情報にはフィルターがかかっていて、『(話している)あなたが気付いていない何かがあるのでは?』という気持ちで聞いている」と、情報を鵜呑みにすることへの警鐘を鳴らす。さらに話題は、ISによる日本人ジャーナリストの処刑や拘束に及び、「『どうして情報をわざわざ取りに行くのか、国の発表でいいじゃないか』という自己責任論もあるが、私はチェイニーのような政治家は(そういう議論を)笑って見ていると思います。大衆が(情報に)踊らされている様子が描かれたこの映画が、今このタイミングで製作されたのは、『(見ている)あなたに言っているんですよ』と指を突き付けられている」と、力強くメッセージを残した。
「バイス」は、4月5日から全国で公開。