本好き必見! 書店を開いた女性描く「マイ・ブックショップ」監督「私はAmazon嫌い」
2019年3月9日 10:00
[映画.com ニュース]イギリスの文学賞ブッカー賞受賞作を、「メリー・ポピンズ リターンズ」のエミリー・モーティマー主演、「死ぬまでにしたい10のこと」の女性監督イザベル・コイシェのメガホンで映画化した「マイ・ブックショップ」が公開された。スペインのゴヤ賞で3冠に輝いた本作は、英国の保守的な田舎町に住む女性が、理想の書店を開くため奮闘する物語。来日したコイシェ監督が作品を語った。
1959年イギリスのある海岸地方の町。書店が1軒もないこの町でフローレンスは戦死した夫との夢だった書店を開業しようとする。しかし、保守的な町ではフローレンスの行動は住民たちに冷ややかに迎えられる。フローレンスは偶然出会った本好きの老紳士に支えられ書店を軌道に乗せるが、彼女をよく思わない地元の有力者が書店をつぶそうと画策する…。フローレンス役をエミリー・モーティマーが演じるほか、パトリシア・クラークソン、ビル・ナイらが共演。
「読書の魔法は他の人生に入り込み、ひいては自分の人生になっていく」と、読書の喜びを語り、今作の原作との出合いをこう振り返る。「ロンドンの古本屋でたまたま見かけたのです。『The Bookshop』というタイトルに惹かれて、私はこれは買わなければと思ったのです。本が私を見つけてくれたのです」
「(原作者)ペネロピ・フィッツジェラルドは、ヨーロッパでもそれほど知られている作家ではありません。すごく変わった人で、この小説も60歳になってから出版されました。テムズ川の大きな船に病気の夫と3人の子供と住み、川に船が沈んで一から出直したりと、苦労もあったようです。主人公のフローレンスは良き人で、イノセントな部分がある。自分の行動の結果がどのように見られるのか、どうなるのか、自覚していないことがあります。彼女は小さな夢を持っており、どんな逆境においてもどんな結果になっても、自分のやりたいことを形にしようと行動する人。私は闘う人に敬意を持っています。自分とは人生が違うかもしれないけれど、そういった姿に惹かれたのです。小説を読んだときからつながりを感じ、読み終わってすぐ映画化したいと思いました」
キャスティングについては、「エミリーには非常に英国らしさというものを感じるし、知的であるとともに、甘すぎない甘さを持ち合わせていると思うのです。様々な美徳が混ざり合っていることを感じさせてくれる女優。そして、彼女はロシア文学の修士を持っていて、本が彼女の人生の一部でもある。私は人が本を持った時に、その人が読書家かそうでないかすぐにわかるのです。だから、本当に本を愛している人に演じて欲しかった。そういった意味では、ビル・ナイも全く一緒。なんと、この話をしたときに、彼は原作を読んでいたのです。最初から、ビルにこのキャラクターを演じて欲しいと思っていたし、ビルの動き方や静的振る舞いが好きだった。エミリーとビルは面識はなかったけれど、お互いのことをとても好ましく思ったようで、非常に相性がよく、美しいシーンに仕上がったと思っています」と振り返る。なお、映画では今の時代に希望を感じさせたいとの意向で原作とは異なるエンディングを用意したそうだ。
闘うフローレンスと彼女を支える人々のドラマが丁寧に紡がれると同時に、見事に当時を再現した美術、細かく計算された色彩設計にも引き込まれる。「リサーチを重ねて独特のメランコリックな雰囲気、明るさからダークなトーンまで、物語やフローレンスの心情に合わせて意識して設計しました。参考にしたのは1950年代の英国の作品です。テクニカラーが登場し、独特の発色だったあの時代。衣装もフローレンスの心象風景を見事にワードローブで表現しています。そういったことができるのが、映画作りの楽しいところでもありますよね。それから、美術に関しても、当時の本屋がどのようであったか入念に調べあのです。あの書店は北アイルランドの村にはなかったので、内部まで全部作りこんで建てました。あとは、当時の本の表紙がどんなカバーだったのリサーチし、ナボコフの『ロリータ』の初版本があの緑色だったことがわかりました」
ホルヘ・ルイス・ボルヘス、フリオ・コルタサルらのほか、川端康成、パトリック・モディアノなどスペイン語圏以外の作家の作品も好んで読み、大きな影響を受けてきたと明かす。「活字離れはおろかなことだと思います。読書によって自分の建設的な批評家精神を養うことでもあるし、世界の見方を教えてくれ、作ってくれるのも書物。世界で起きていることを受け入れたいのか、受け入れたくないのか、そういった理解を養うことができますし、時には孤独やおろかさに対する薬の役割も果たしてくれました。孤独でいるのは悪いことではありませんし、孤独について語り合える友人と出会うこともあります」
書籍の選び方については、Amazonをはじめとしたインターネットサービスを利用し、自分が目的とするものを見つけて買うという時代の流れとは反対に、書店での偶然の出合いを重視しているという。「私はAmazonは嫌いなんです。表示されるオススメも気にしません。一体私の何を知ってるの?と思ってしまう。今の世の中はアルゴリズムで動いているのはわかっているけれど、私には関係ないのです」
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。