血糊さえも美しい…新たな「サスペリア」に挑んだルカ・グァダニーノ「私自身がオリジナルのレガシー」
2019年1月25日 18:00
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[映画.com ニュース]「君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ監督が、ダリオ・アルジェントの伝説的ホラーを再構築し、同名の新たな物語としてリメイクした「サスペリア」が公開された。来日したグァダニーノ監督に話を聞いた。
1977年公開のオリジナルに「おとぎ話のように魅了されたのです。今だから言えますが、ダリオは子供向けの映画を作っていたと思う。だから子供の頃の自分に影響を与えたのでしょう」と明かす。グァダニーノ版「サスペリア」はオリジナルを下敷きにしながらも、血糊さえも美しい一流の芸術作品として生まれ変わった。
「前作『君の名前で僕を呼んで』もそうでしたが、私はいつもその時代にいるつもりで撮るのです。作品には同時代的な時代背景を入れたいと思っており、前作も今作もある意味で二つの時代物」と、今作では東西に分断され、冷戦の象徴ともいえる1977年のベルリンの街にこだわった。西側ではドイツ赤軍によるテロが激化するという状況を、魔女と社会不安という表現に落とし込んだ。「私は1977年のドイツに対する情熱があり、当時を愛し、研究しました。フェミニストにとっても重要な年でもあったのです」と説明する。
イタリアの避暑地を舞台にした「君の名前で僕を呼んで」では、陽光のきらめきを感じさせる明るい画が印象的だったが、今作では一転し、曇天のベルリン、重厚な建物内に閉ざされた舞踊団のスタジオで物語は進む。撮影監督はアピチャッポン・ウィーラセタクンの作品でも知られるサヨムプー・ムックディープロム。
変幻自在に光を捉えるサヨムプーを「彼はマスター」と呼び、ほれ込んでいる。「いちばん最初にサヨムプーに会ったのは、プロデューサーとしてなんです。フェルディナンド・シト・フィロマリノ監督の『アントニア』という作品があり、フェルディナンドがサヨムプーを気に入って、タイからイタリアに来てもらった時に彼を知り、僕の映画にも参加してもらうことに。そこで『君の名前で僕を呼んで』に続いて参加してもらいました」
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オリジナルは極彩色の館で起こる惨劇が観客の目を驚かせたが、今作は、ダークなトーンを選んだ。「オリジナルの原色使いは、プロダクションデザインというよりも、ルチアーノ・トボリのライティングが色を感じさせているのだと思います。今回は、プロダクションデザイナーのインバル・ワインバーグは私が欲しいものをよく理解してくれました。泥色、グリーン、錆色、濃い青、あとはその中間色というのでしょうか、私はこのカラースキームがとてもドイツらしいと思うのです。まるで、バルテュスの絵画と呼応するような感じがするのです」と語る。
今作には40人もの女性キャストが登場するが、マダム・ブラン役を演じるティルダ・スウィントンが、男性のクレンペラー博士も含むひとり3役を演じている。「『サスペリア』は女性の映画で、女性の中の闇も描いている。その中で唯一の男性を女性が演じていたということが面白いと思ったのです。男は女によって作られているのです」とその意図を明かす。そして、「ミラノ、愛に生きる」「胸騒ぎのシチリア」に続いての出演となったスウィントンは、監督のミューズとしての女優という関係ではないと断言する。「ティルダは私にとってのミューズという存在とはいちばんかけ離れているところにいます。ミューズは対象で、そこにいるだけであるインスピレーションをもたらす存在です。そういう立場に彼女を収めるのは、彼女が嫌がると思うし、僕も必要ないのです。ティルダはクリエイティブパートナーとしていろんなことを実験したり、作り上げていくパートナーなのです」
昨年のベネチア映画祭での初上映には、賛否両論が巻き起こった。既に過去作が高く評価されているとはいえ、映画ファンなら誰もが知る伝説的な作品を再構築することにプレッシャーはなかったのだろうか。
「こういった質問は、日本人の責任感の強さや倫理観というところから来ていると思うので、私の答えは傲慢に聞こえるかもしれません。私は何かをやるときに、恐れを感じたりはしないのです。私が感じる責任は、自分のベストを尽くすこと。オリジナルの持つレガシーに近づくということではなく、自分なりのベストを尽くすことです。オリジナルにまつわるレガシーは、私にとって意味のないこと。オリジナルの大ファンである私自身レガシーの一部なのです。それで参加する権利があると感じたのです」
「ひとつ私が悲しむことがあるとすれば、オリジナルと私の作品との関係です。その関係は非常に強烈なものでしたが、それが終わってしまったのです。私は、オリジナルの『サスペリア』はもう一生見ないと思います。私は自分の『サスペリア』を作る前に、オリジナルと愛を交わしていたと思うのです。しかし、それは終わってしまった。それは、失恋なのか、それともオリジナルを私が搾取してしまったのか、恋に目がくらんで真実が見えなかったのか……そういうことについて、何年も考えるかもしれません。でももちろん、私はダリオの『サスペリア』に感謝しています。私に私の『サスペリア』を作ることを許し、自由にさせてくれました」
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