「制限があるからこそクリエイティブになれる」隠れた社会問題描く「フロリダ・プロジェクト」監督に聞く
2018年5月11日 16:00
[映画.com ニュース]全編iPhoneで撮影した映画「タンジェリン」で高く評価されたショーン・ベイカー監督が、フロリダのディズニーワールド裏の安モーテルに暮らす貧困層の人々の日常を、6歳の少女の視点から描いた「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」が5月12日から公開される。来日したベイカー監督に話を聞いた。
定住する家を失った6歳の少女ムーニーと母親ヘイリーは、フロリダ・ディズニーワールドのすぐ側にあるモーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしの生活を送る。ムーニーは同じくモーテルで暮らす子どもたちとともに冒険に満ちた日々を過ごし、管理人ボビーはそんな子どもたちを見守っていた。そんなムーニーの日常が、ある出来事をきっかけに大きく変わりはじめる。
「組合と仕事をすることになるので、かかわる人数やルールも増えていきます。でも、基本的にアプローチは同じであろうと心がけました。もしかして現地で何か起きるかもしれない、ハッピーなアクシデント、サプライズ、取り入れられる余地を残しておきたかっのです。より大人数のコミュニケーションになってくるので、自分なりに学ぶことも多かったんです。もちろん、フィルムで撮れたことも大きいです。正直言って、予算はいくらあっても足りることはないというのが製作の現場ですが、今年のオスカーノミネート作でドキュメンタリー以外で、最もバジェットが低かったのがこの作品なので、まだまだ低予算映画の範疇だと思っています」
「子役をつかっているので、撮影期間は60日欲しかったけれど、35日しかもらえなかった。そのとき、これ以上つらい事はないと思ったけれど、本当はそれが良かったりするんです。制限があるからこそクリエイティブになれるといわれますから。アルメニア系のカレン・カラグリアンには、NYから来てもらいました。デフォー以外に、フロリダの街の外から、キャスティングできる人が、予算的に彼しか許されなかったけれど、結果的に最高の人材に恵まれました」
「『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』から、色彩の使い方、それが喚起する感情をより掘り下げて行く様になりました。モーテル、マジック・キャッスルはもともとあの色だったのです。あの鮮烈なラベンダー色はアイキャンディとも言って、すごく視線を引き寄せるんです。フロリダ空港から、ディズニーワールドの途中にある192号線沿いの建物すべてがみんなそう。例えば、子どもが火を放つ、コンドミニアムの廃墟も一切色をいじっていないんです。贈り物のような色彩でした。今は、再開発で変わってしまったエリアですが、あれらを映像に収めることが出来てラッキーでした。とにかく192号線沿いのカラフルさを、美としていかに取り入れるかを考えました。192号線沿いの商業施設は、ディズニーワールドと同じ手法を自分たちのデザインに取り入れてるから、カラフルでポップだったり、かわいい感じなんです」
「どの州も、貧富の差はエリアによってありますが、一般的にこの場所は、テーマパークがある場所としてしかみなされていませんでした。隠れたホームレス問題が、ディズニーワールドのエリアにあることがショッキングで、SNSでも大きな反響がありました。世界中の旅行客が集まる大きな観光地です。そういうイメージがあるがゆえに、驚きを持って受け止められているようです」
「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」は、5月12日から新宿バルト9ほか全国で公開。
執筆者紹介
松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。