【映画プロデューサー・北島直明を知ってるか!? 第1回】「ちはやふる 結び」誕生前夜
2018年3月13日 15:00
[映画.com ニュース] 近年、“とにかく活きの良いプロデューサー”として日本映画界に名を刻み始めた男がいる。その名は、北島直明。成功に導いた作品は数あれど、北島氏の名を最も世に知らしめたのは「ちはやふる 上の句」「ちはやふる 下の句」ではないだろうか。そして、待望の完結編「ちはやふる 結び」が3月17日に封切られる。映画.comでは、年間を通じて北島氏に密着。映画プロデューサーという仕事に焦点を当てながら、活きが良いだけでなく丁寧な作品づくりに定評のある北島氏が、現場で何を考え、次なる一手をどのように放とうとしているのかに追ります。
徳島県出身の北島氏は、2004年に日本テレビ入社。8年間にわたり営業畑を歩んだ後、12年に事業局映画事業部への異動をかなえる。幼少期から映画少年だった北島氏は、第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、ハリウッドリメイクも決定している「藁の楯」をプロデュース。その後も、「オオカミ少女と黒王子」「斉木楠雄のΨ難」などをプロデューサーとして成功に導き、「22年目の告白 私が殺人犯です」ではエランドール賞プロデューサー奨励賞を受賞している。今年は「ちはやふる 結び」以外に「ママレード・ボーイ」と「50回目のファーストキス」の公開を控えるなど、まさに引っ張りだこの状態が続いている。
競技かるたの世界を描いた「ちはやふる」には広瀬すず、野村周平、新田真剣佑、上白石萌音、松岡茉優ら若手実力派が顔を揃えているが、オーディションで合格を勝ち取った段階では、世間的には無名といわれても仕方がないほど各々の知名度は高くなかった。それでも、不退転の覚悟で撮影に臨んだキャスト陣は、作品世界を踏襲するかのごとく飛躍的な成長を遂げ、「上の句」「下の句」の累計興行収入約28億5000万円という大ヒットを記録するまでに作品を牽引していった。
完結編「ちはやふる 結び」の製作が発表されたのは、16年4月29日に行われた「下の句」初日舞台挨拶の終盤だったが、製作サイドはいつ“決断”をしたのだろうか。北島氏は、手帳を見ることなく淀みなく言い切る。
「僕の中で『続編を作りたい!』と思ったのは、『上の句』の初号試写があった15年11月27日。原作者の末次由紀さんが涙を流しながら試写室を出てこられて、『うちの子たちをこんなに素敵な映像にしてくれてありがとうございます』と言ってくださった。それから役者の事務所の方々も泣いておられましたし、僕の背中を押し続けてくれた会社の部長が泣いているのを初めて見たんです。それを見たとき、『これだけで終わりたくないな』って思ったんです。そもそも、キャスティングを進めている時点で続編ありきではなかったんですが、初号の出来を見て、役者の年齢的なことを考えても、もう1本作れると感じました。そういった経緯も踏まえて、『上の句』の初号の日に会社も、部長も『作るべきだ』と賛成してくれました」
メガホンをとった小泉徳宏監督の感触も、「ノーではなかった」という。「その時は『下の句』の編集段階でしたし、フルマラソンを走っている途中の選手に、もう1回フルマラソンを走ってくださいと頼んでいるようなもの。だから『分かりました、本決まりになったら教えてください』という、控え目な感じでしたね」
ただ結果が全ての世界、興行の推移を見守り、真摯に受け止めるつもりでいたところ、「初日のお客様の入り方を見て、配給の東宝さんを含む関係者の皆さんが続編をやるべきだと言ってくださった」。胸の中では構想が固まっていたようで、「2年後を描こう。つまり、年齢とともにこの作品も育っていくんだという。監督は『結構出し切っちゃったよ』と言っていたのですが、千早(広瀬)、太一(野村)、新(新田)の3人の関係に決着をつける必要性が絶対にあることを主張した」という。
続編製作決定の報を、「下の句」初日舞台挨拶で発表するにいたった背景についても「取材を受けているのを見ていると、どの役者もどんどん寂しそうな顔をするんですよね。特にすずは、『本当にこれで終わりなのかあ』みたいな。やっぱり、一生懸命頑張っている役者の子たちに喜んでもらいたいじゃないですか。ファンの方々も含め、皆さんが一番『ちはやふる』に注目してくれるタイミングで発表するのが一番なんじゃないかということで、あの日に合わせたんです」と明かす。
ただ、一抹の不安もあったという。「いきなり発表して、やりたくないって言うキャストが1人でもいたらどうしよう……と。ないとは言い切れないじゃないですか。各事務所に相談はしていましたけど、本人たちの意向は聞いていなかったので。でも、みんながあれだけ喜んでくれたということが嬉しかった。監督も、あの姿を見て腹が据わったんだと思います」
撮影現場での北島氏は、とにかくよく動く。それも、プロデューサーとしての経営者的な感覚を一瞬たりとも忘れることなく。だが「ちはやふる」の現場では、さらに別の顔をのぞかせる。その表情は、父親のものに近いかもしれない。多感な年代の役者たちを預かる責任を隠そうとしないのは、北島氏がアシスタント・プロデューサー(AP)として「桐島、部活やめるってよ」の現場を経験しているからに尽きる。
「『ちはやふる』が作れたのは、APとして『桐島』の現場を見ていたからだと思うんです。役者が全てをかけるエネルギーみたいなものを。ただ、『ちはや』と『桐島』の現場の決定的な違いが何かというと、最年長と最年少の差があまりないんですよ。『桐島』のときは、未成年組と大人組が結構分かれていましたね。『ちはや』のメンバーはみんな、“いま頑張らないで、いつ頑張るの!”というメンタルの集合体でしたから(笑)」
そういう年代が結集した現場なだけに、高校の部活動に見られる連帯感みたいなものが垣間見られたことは想像に難くない。北島氏は、現役の高校生として撮影に臨んでいた上白石が取材時に漏らした一言に思いをめぐらせる。
「萌音は学校に通いながら撮影に参加していたんです。このお仕事をしていると、どうしたって普通の高校生活を犠牲にせざるをえないじゃないですか。それは仕方のないことだと思うんです。自分のやりたい事を通すとしたら、我慢しなきゃいけない事だってある。でも、彼女はインタビューで『私の青春時代がいつかと言われれば、それは“ちはやふる”です』って答えてくれたんです。あれは嬉しかったなあ。僕らも、なるべく気持ちを作ってあげたいので、かるたの練習もひとりでやるのではなく、なるべく皆でやれるように手配しました。その練習も、ふざける空気を出さないように配慮もしましたし。それで練習が終わったら、『みんなで焼肉行くぞ!』って……、本当に部活ですよね(笑)」
そんななかでも、北島氏をはじめとする製作陣は細心の注意を払った。「外からの見え方として、未成年が含まれている以上、お酒とかタバコとか、そういう誤解は絶対に生まれないように徹底しました。世の中には人気者を蹴落とそうとする悪意が絶対にある。そんなどうでもいい大人の悪意で、彼らの人生をつぶしたくないっていう思いが強かったですね」。
北島氏が語る「ちはやふる」製作秘話、まだまだ序の口。悪戦苦闘して出来上がった完成稿にはクライマックスが2つあったことや、俗に言う門外不出の「北島ノート」の存在についてなどは、次回まで持ち越しとさせていただきます。(映画.com副編集長 大塚史貴)
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