イ・ビョンホン主演「エターナル」の新鋭監督、感情表現の参考にしたのはあの日本映画

2018年2月17日 12:00

デビュー作にしてイ・ビョンホンとタッグ
デビュー作にしてイ・ビョンホンとタッグ

[映画.com ニュース] 「マグニフィセント・セブン」「MASTER マスター」の国際派イ・ビョンホンが主演した「エターナル」(公開中)の監督・脚本を手がけた新鋭イ・ジェヨン監督が来日し、映画.comのインタビューに応じた。

韓国の証券会社の支店長であるカン・ジェフン(イ・ビョンホン)は、会社の不良債権事件に巻き込まれ、すべてを失ってしまう。失意のなか、オーストラリアで暮らす妻と息子に2年ぶりに会いに行くが、そこには別の男性の影があった。失意にくれるジェフンだったが、なぜか家族と対面せず、その後も奇妙な行動をとり続ける。

シークレット・サンシャイン」「ポエトリー アグネスの詩」で知られる名匠イ・チャンドン監督に師事したイ監督は、約8カ月をかけて脚本を練り上げた。それが韓国を代表する人気俳優イ・ビョンホンの目に留まり、世界各国で公開されるまでになったというから、まさにシンデレラストーリーだ。とはいえ、実際に作品を見てみると、新人離れした構成力や、キャラクターの心象風景を異国の地オーストラリアの空気感に落とし込んだ映像力、ミステリアスな雰囲気を醸し出させる演出力に驚かされる。

「私にとって初めての長編なので、自伝的な要素が入らざるを得ませんでした」と口を開いたイ監督は、「私は以前、広告会社に勤めていたのですが、会社を辞めたときにかばんも持たずにふっと遠くに(旅行に)行って、何もせずに戻ってきてしまったことがあったんです。それがそもそものモチーフになりましたね」と実体験に着想を得たと明かす。

本作の舞台をオーストラリアにした理由は、「季節が(韓国と)反対だということと、よく知っているようでいて見慣れない気もする場所であるという点。同じ時間でありながら“異空間”でもあるため、旅行者にとっては自分とかけ離れた所にあるイメージですし、かけ離れた所にある自分の気持ちを表現できると思いました」という考えから。演出においても、イ・ビョンホンと二人三脚で打ち合わせを重ねつつ、「この映画は、見知らぬ所に初めて行く異邦人の話だったので、むしろ本人の即興的な視線の方が大事なのかなと思ったんです。イ・ビョンホンさんがもし初めてこの場所に行くとしたら、どんな風に行ったらいいのか、それをまず私が見せてもらって、本人がその空間に身を置いたときに、感じるままの導線にあわせて撮っていきました。即興で撮り方を変えていったので、撮影監督はすごく嫌がっていましたが(笑)」と、あくまでキャラクターの内面をすくい取ろうとしたという。

これらのアイデアは、“異邦人”としてのジェフンの存在を際立たせ、キャラクターの内にある孤独感を強めると共に、異質なムードを画面に付加している。そうしたこだわりは、劇中に登場する食べ物にも顕著だ。物語の序盤で、すべてを失ったジェフンが誰もいないマンションで1人寿司を食べるシーンがあるが、イ監督によれば「実は、そのシーンの当日か前日か翌日がジェフンの誕生日という設定で、お寿司は、誕生日に食べるはずのものだったんです」とのこと。

「本来はおいしいはずなんですが、1人で食べるシーンを見せることによって『哀れだな』と見る者に憐憫(れんびん)を呼び起こすような効果を狙いました。そのため、温かくない食べ物にしたくてお寿司にしたんです。ちらし寿司だったらまた違った印象になると思うんですが、(そのような意図から)1貫ずつの握りにしました」と、こちらも驚くような綿密な計算によるものだという。イ監督はさらに、「エドワード・ホッパーの絵では、都会の明るい中に佇んでいる孤独な人の姿がよく描かれています。そういった絵も念頭に置いていましたね。感情を表現する上で考えたのは、市川準監督の『トニー滝谷』です」と影響を受けた作品を挙げる。

後半にはどんでん返しも用意されているが、イ監督は「人をだますことが目的ではなくて、(観客が)この映画の中で描かれていることを知るにつれて『この主人公は本当に悲惨な状況だったんだ』と共感してもらえることを目標としてシナリオを書いていたんです」と、観客がキャラクターの気持ちに寄り添えることが肝要だと語る。「この映画は、犯人を隠しておいて、後で明かすというものではないので、事前にヒントを知ってもらってもいいな、と思っていました。ですので、ヒントも果敢に入れていきました。(真相に)気づくタイミングは各自で異なるでしょうし、本作においてはそれでよかった。あくまで目標は共感していただくことだったので、知りたい時点で知っていただければいいなと思っていました」と見せ場をガチガチに固めるのではなく、観客がジェフンの気持ちに寄り添うなかで作品に隠された真相に気づいていく、という流れを作り上げた。

長編デビュー作にしてすでに達観した雰囲気を漂わせるイ監督だが、前述の寿司を食べるシーンで、ある“ハプニング”に見舞われたのこと。「お寿司は、最初12貫ぐらいあったんです。それを5貫か6貫ぐらい取り除いた状態で置いて、そこからイ・ビョンホンさんが食べ始めるというシーンを撮ったんですね。そうしたら、『この状態で食べ始めたら、自分がそれ以前にたくさん食べたように見えてしまう。こういう状況だったら、ジェフンは1貫か2貫しか食べないんじゃないか』とイ・ビョンホンさんに怒られてしまったんです。“それは私が決めてもいいんじゃないかな、勝手にやっちゃダメなのかな……”って思いました」とほほ笑ましいエピソードを明かした。初々しさを垣間見せたイ監督は、「イ・ビョンホンさんには、いつも怒られながら撮っていました(笑)」と冗談交じりに締めくくった。

(映画.com速報)

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