Xマス映画の定番「ラブ・アクチュアリー」も初登場!シネマ・コンサートが高価なのに大人気の理由
2017年10月22日 12:00
[映画.com ニュース] 映画をフルオーケストラの演奏で上映する「シネマ・コンサート」という新たな映画鑑賞スタイルが人気を集めている。入場料金は9800円(S席)と高額ながら、松本清張原作のサスペンス人間ドラマ「砂の器」(1974)、今年のアカデミー賞で話題になった「ラ・ラ・ランド」(2016)は前売りの時点で完売。今後も、「スター・ウォーズ フォースの覚醒」(10月13~15日に大阪、名古屋、東京)、クリスマスの定番ラブストーリー「ラブ・アクチュアリー」(12月22日大阪、25日東京)が控えている。いま、なぜ、シネマ・コンサートなのか。その人気の秘密に迫る。(取材・文/平辻哲也)
ちょっと贅沢な時間である。シネコンではお目にかかれない巨大なスクリーン。正装の交響楽団員が登場し、指揮者がタクトを振るうと、生演奏。音楽を楽しもうか、映像を見ようか。最初はちょっとした戸惑いもあるかもしれない。
時間の流れ方も違う。シネマ・コンサートは、約15分のインターミッションを挟む2部構成。まるで、舞台か歌舞伎を見るような感覚なのだ。通常の映画上映のエンドクレジットでは立ち去る人も多いが、シネマ・コンサートは、ここがヤマ場。観客は映画の余韻、最後の演奏を堪能し、交響楽団へ惜しみない拍手を贈る。時にはスタンディングオベーションとなり、「ブラボー!」との声も。指揮者は舞台中央と袖を何度も往復することになる。
これまで筆者は今年3度、シネマ・コンサートを見た。「砂の器」(8月、Bunkamuraオーチャードホール)、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」(8月、東京国際フォーラムホールA)、そして、「ラ・ラ・ランド」(9月、パシフィコ横浜国立大ホール)だ。いずれも再見だが、初見とは違った感動があった。「砂の器」は組曲「宿命」(同じ東京交響楽団が演奏)が流れる後半40分が圧巻。「秘密の部屋」では、こんなにも多くの楽曲が奏でられていたのか、という驚き。「ラ・ラ・ランド」は以前、劇場で見た時より感情を揺さぶられた。それは、一重に生演奏の迫力に尽きるのだろう。ライアン・ゴズリング、エマ・ストーンの歌声に、躍動感のある交響楽団の演奏が迫ってくる。特大スクリーンで映像を楽しみ、音を体感する大人の映画ファンの嗜み。それがシネマ・コンサートではないか。
そんな思いを持つ人が多いようで、終映後はサントラの売り場には行列もできる。「前から欲しかったのですが、映画を見たら、絶対欲しくなった。スマホに入れて、会社の行き帰りで聴くつもりです」と、「ラ・ラ・ランド」を見に来た30代女性は話してくれた。
運営会社「プロマックス」で企画・制作を担当する飯島則充プロデューサーに、その成り立ちを聞いた。「もともとクラシック好きで、坂本龍一さんのコンサートなども手がけるなど映画に近い位置にいました。3年前、ネット検索をしていて、シカゴオーケストラが『ゴッドファーザー』のシネマ・コンサートをやっていると知り、シカゴまで見に行ったんです。コンサートホールで、大きなスクリーンで見る映画は、DVDで見るのとは、えらく違うなと感動したんです」と話す。
飯島氏は東京フィルハーモニー交響楽団に演奏を依頼し、15年1月にトークを交えた「ゴジラ」のイベント上映、10月に「ゴッドファーザー」(72)のシネマ・コンサートを開催。「『ゴッドファーザー』では、小泉元首相が来場されましたが、ヤクザの親分が黒塗りの車でやってきました。こういう方にも響いたんだな、と驚きました」と飯島氏。この公演で大きな手応えを感じ、その後は「タイタニック」(16年4月)、「ハリー・ポッターと秘密の部屋」(16年8月)などを上映してきた。
シネマ・コンサートはパッケージを販売する数社の米会社から権利を買うという形を取る。作品選びのポイントは「オーケストラの作品であり、なおかつ、音楽が耳に残ること」。唯一の例外は「砂の器」。これは松竹側からのアプローチがあった。「何度もドラマ化されている名作ではありましたが、古い作品でもあり、どうかなと思ったんですけども、勘は正しかった」(飯島氏)
「シネマ・コンサートの歴史は浅いのですが、それには理由があるんです」と話すのは、東京フィルハーモニー交響楽団 公演事業部・岩崎井織課長だ。「アメリカでは、『バックス・バニー』『トイ・ストーリー』といったアニメ系のシネマ・コンサートは昔からあったんです。クラシックの公演では集客するのが難しいということもあり、オーケストラはシネマ・コンサートで、一般のファンとの架け橋のようなことをやっていた。しかし、プロダクションのコストが高く、映像がなかなか使えなかった。それが時代の変化とともに少しずつ使えるようになり、近年、シネマ・コンサートが爆発的に増えたんです」
その演奏は難易度が高いという。「サントラは何度もレコーディングしているものから、選んでいきますが、シネマ・コンサートは映像に合わせながら、オリジナルスコアを一発勝負で演奏する」(岩崎氏)。しかも、「ハリー・ポッター」「スター・ウォーズ」は劇中の80~90%を音楽が占める。一般に映画における音楽の割合は38%と言われる中、異例のボリュームなのだ。
オーケストラは通常、公演の1カ月前から個人練習を始め、数日前に1~2日、全体のリハーサルを行って本番に臨む。その編成は楽曲にもよるが、少ないときでも50人。多いときは90人という大世帯となるというから、S席9800円という価格設定になるのも、頷ける。飯島氏によれば、「ゴッドファーザー」の米国での公演は160ドル(約1万8000円)だったという。
岩崎氏は「オーケストラの立場から言うと、こうしてうまく使って頂き、普段はクラシックコンサートを聴かない方々も演奏を聴いて頂けるのは大変ありがたい。これを機会に、作品の新たな一面を見られたり、音楽の楽しさを感じていただければ」と話す。
最新シネマ・コンサートとなる「ラブ・アクチュアリー」(12月22日大阪国際会議場グランキューブ大阪・メインホール、12月25日東京国際フォーラム ホールA)では、記念アイテムがついて、600円得になる「限定ペアチケット」(S席×2枚、計1万9000円)も発売。優先購入できる「シネマ×オーケストラ メンバーズ」という会員組織も発足させ、固定ファンの獲得に動いている。
シネマ・コンサートは新たなエンタメとして、さらに人気を集めそうだ。
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