ベトナムNo.1監督ビクター・ブーに聞く、同国の映画事情
2017年8月15日 10:00
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[映画.com ニュース] ベトナム映画「草原に黄色い花を見つける」が8月19日、新宿武蔵野館ほかで順次公開される。同作は2015年ベトナム映画興行収入第1位となる大ヒットを記録し、第89回アカデミー賞外国語映画部門の同国代表にも選ばれた。米カリフォルニアで生まれ育ち、ベトナムを拠点に活動する新世代監督のビクター・ブー氏に聞いた。ベトナム映画市場は年30%以上の成長を続けていると明かし、「近い将来、日本でも映画を撮りたい」と意欲を見せた。(取材・文/平辻哲也)
「草原に黄色い花を見つける」は、1980年後半のベトナム中南部フーイエン省の村が舞台。思春期らしい悩みを持つ兄、兄とは対照的な純真無垢の弟を主人公にした、幼なじみの少女との淡い初恋の物語だ。日本人でも、どこか懐かしさを感じる美しい自然を背景に、恋の悩み、妬み、別れが詩情豊かに描かれる。ベトナムでは15年に公開され、約130万人を動員し、興収約4億3000万円を稼いだ。舞台の村への観光ツアーが人気を集めるなど社会現象にもなった。
派手な娯楽作ではない文芸作が、なぜ、ここまで大成功を収めたのか。「それには、いくつかの理由があると思います。まず原作が有名だったこと。それに、ノスタルジーな映画だったからではないでしょうか。上の世代には懐かしく、若い世代には両親の子ども時代を探るような映画でした。ですから、何世代のもの人が一緒に見られたんだと思います」
原作は、ベトナムでは知らない人はいないという国民的な人気作家グエン・ニャット・アインが10年に発表したベストセラー小説だ。「兄弟関係の物語で、親しいものを感じました。僕にも、6歳離れた弟がいましたから。原作では兄に惹かれたんですが、物語の弟はうちの弟にそっくりでした。僕のことが大好きで、いつも、どこでもくっついてくる。(映画同様)ひどいことをやってしまったなあ、と。自分の記憶や情緒を呼び起こすものがあったんです」
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ベトナム映画というと、まず思い浮かべるのはトラン・アン・ユン監督による仏との合作「青いパパイヤの香り」(1993)だが、ブー監督は新世代の監督として注目を集めている。両親は米国に移住したベトナム人で、75年にカリフォリニアで生まれた。
「初めて見た映画は7歳の時に見たスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』(1982)でした。当時、大人になって何をするかはわからなかったけれども、映画の世界に入りたいとは思いましたね。12歳の時に母がビデオカメラを買ってくれたんです。最初の監督作は13歳の時。弟が主役で、火山が爆発して、村は壊滅するというアドベンチャームービーでした。すっかり、映画ファンになって、結局、映画の学校に行くことになりました」
ロスのロヨラ・メリーマウント大学で映画製作の学位を習得。卒業後は、VFXの会社で約6年間、ネットワークのサポートを担当する技術者として働く傍ら、週末には映画を製作。03年に監督としてのキャリアをスタートした。09年からベトナムに拠点を移し、以降、年間1~2本のペースで作品を送り出し、一躍、大ヒット監督への仲間入りを果たした。
「べトナムへの思いは元々、僕の中に埋まっていたんではないか、と思います。ベトナムの映画、ベトナムの主題に惹かれるんです。父は法律関係の仕事をしていて、母は僕を身ごもったままアメリカに行ったのです。だから、僕自身は『製作はベトナムで、配給はアメリカ』と言っているんですよ。最初の短編は、お母さんから聞いた話にインスピレーションを受けたものでした。僕がいつもベトナムにいるので、アメリカにいる両親は混乱しています」と笑う。
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ベトナムの国内映画市場はコメディやホラーが人気で、今、急激な成長を見せているという。「10年前、僕が最初に来た時とは全然状況が違います。当時は年間4、5作品しかなかったんです。今では毎週1、2本のペースで作られ、年間50~60本くらいです。ボックスオフィスでは、ハリウッド映画も入っていますが、高成績を収めているのはベトナム映画なのです。きっかけは、興行的に成功したベトナム映画が何本か続いたことで観客の関心が増したこと。それにシネコンが増えたことです。ここ数年、年間興収は30%以上の成長率を見せています。この急激な変化には、僕自身とても驚いています。日本映画はDVDなどで見られますが、劇場公開は限られています。最近だと『デス・ノート』、北野武監督作、三池崇史監督の『十三人の刺客』などでしょうか。もっとベトナムでもアクセスがあれば、いいのですが……」
自身は2つの新作を撮り終えたばかり。「1本はVFXを駆使したアクションスリラー。もうひとつはスーパーナチュラルな話です。100年前から始まり、ベトナムの近現代史をなぞった叙事詩的な話です。僕はいろんなことに興味があって、その時、ひらめきを感じたものによります。同じようなドラマを続けて作ることは難しい。僕は脚本から編集まで集中して関わり、12か月を費やし、その中で生きて、呼吸するという感じです。だから、1本撮ると、枯渇してしまうのです。自分を再起動することが難しい。『草原に黄色い花を見つける』と同じ作家による原作で、温めている作品(日本でも翻訳本が出版された『つぶらな瞳』)もありますが、今はタイミングを待っている状態です」
好きな作品を聞くと、アルフレッド・ヒッチコック監督の「疑惑の影」(46)、「めまい」(58)。それに黒澤明監督の「用心棒」(61)、「乱」(85)、新藤兼人監督の「鬼婆」(64)、勅使河原宏監督の「砂の女」(64)を挙げる。
「アメリカで育ったので、日本への知識は限定的です。歴史の本と映画を通じて、ですね。映画は文化の架け橋だと思っています。日本へは今回で2回目ですが、情感的なつながりを感じていて、もっと勉強して、もっと来たいと思うようになりました。日本でも映画を撮れないかな、と思い、映画会社の人と話をしています」と“I LOVE 東京”とプリントされたTシャツを着たブー監督は話す。近い将来、日本=ベトナム合作による新作も見られるかもしれない。
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