「ロボコップ」から新作「エル」まで 鬼才バーホーベンが創作の裏側を語る
2017年6月25日 17:30
[映画.com ニュース] 「フランス映画祭2017」の企画の一環で、ポール・バーホーベン監督が創作の裏側を語り尽くすマスタークラスが6月24日、渋谷の映画美学校で行われた。
オランダ出身のバーホーベン監督は、オランダでテレビ・映画作品を手掛けた後に、1980年代以降はアメリカに進出。ピーター・ウェラー主演の「ロボコップ」やアーノルド・シュワルツェネッガー主演の「トータル・リコール」、シャロン・ストーン主演の「氷の微笑」などで話題を集めた鬼才。近年はヨーロッパに戻り、「ブラックブック」「エル ELLE」といった作品を発表。過剰なまでのエロ・グロ・バイオレンス、そして皮肉に満ちた社会風刺描写などで、作品を発表するごとに常に話題を集めている。
バーホーベン監督には熱狂的なファンが多く、この日のチケットは即完売。会場は映画製作を志す者たちの熱気に満ちあふれていた。「リング」の脚本家としても知られる高橋洋監督が聞き手を務め、まずは「過剰でありながらエンタテインメント性あふれる描写はなぜできるのか?」という質問からトークはスタートした。
それに対して「『ロボコップ』はアメリカに対する知識の欠如から生まれた映画なんだ」と説明するバーホーベン監督は、「具体的にどことは言えないんだが、オランダから来た僕の、異世界に対する驚嘆、面白いという気持ちが出たんじゃないか。アプローチが軽やかで、ヘビーすぎないのがうまく出た。予算は1300万ドルとそれほど高くなかったから、スタジオも気楽に作らせてくれた。とても良い偶然が重なって、それがうまくいった作品だ」と解説する。
そして「スターシップ・トゥルーパーズ」についても「あの映画の政治的で皮肉な側面は意識して付け加えたものだ。ロバート・A・ハインラインの原作はファシスト的な要素が強くて。僕はその思想には同意していなかったんだけど、僕らは映画をアメリカへの批判として、アメリカで起こりうるファシズムの可能性を描いたんだ」とコメントすると、「でもそれが実際に現代のアメリカを見ればね……」と付け加え、ニヤリ。「とにかく『スターシップ・トゥルーパーズ』というのは偶然の産物のような映画でね。ちょうどあの時期は製作会社のトライスターのトップが6カ月ごとに何人も代わっている時期だった。通常のメジャー作品なら内容をチェックされるところなんだが、誰もこの映画を監視しなかったんで、会社に気付かれないうちに完成したというわけ。こんな映画を今、作るのは不可能だろうね。まあ、このままトランプ政権が続くようなら、メジャーの考え方も変わるかもしれないけどね」と笑いつつも、「良きにせよあしきにせよ、人生は計画通りにいかないものだが、この2作品はラッキーだった」と振り返った。
さらに「ロボコップ」のスピーディーなカット割りについて「意識してそういうカット割りにしているのか?」という質問も飛び出したが、それには「僕は編集はやらないんだ。腕のいい編集マンに任せているからね」と笑顔。「最初は女性の編集者に頼んだんだけど、急に彼女が仕事ができなくなり。急きょスケジュールが空いている人(フランク・J・ユリオステ)にお願いしたんだ。それが最高の仕事をしてくれた。自分で撮影した素材は全部編集マンに渡した。そうしたら編集した映像は自分の想像以上の映像だった。よくぞこんないいシーンにしてくれたと感激したよ」。
そこから「これは映画製作を志す皆さんにお伝えしておきたいことなんだが」と続けた監督は、「重要なのは腕のいいスタッフを信頼すること。それは編集マンに限らず、カメラマン、作曲家などにも通じることなんだが、才能がある人は細かくマネジメントするべきではない。監督の中には一緒に編集スタジオに座って、いちいちこれはいるとか、いらないとか言う人がいるけど、僕はそれはやらないね。だって才能あふれる人に自由を与えると彼らはよりクリエイティブになり、作品はさらにレベルアップするから。だから僕は素材を渡したらもう編集スタジオには入らない。大事なのは仲間を信頼することだ」と若きクリエーターたちにアドバイスを送った。
さらに「絵コンテを描く?」という質問には「映画によるかな。特にSFの場合は、特殊効果に準備が必要となるんで、何か月も前から絵コンテを描いて準備をしないと間に合わない。でも撮影当日に新しいアイデアが思い浮かんでも、それをやり直すだけで莫大(ばくだい)なお金がかかってしまう。そのやり方にはイラッとするときもあるね」と返答する。「新作の『エル ELLE』では、撮影中の夕方に絵コンテを描いて、それを助監督に渡して翌日の撮影に備える。非常にゆるい撮り方だった。やはり『エル ELLE』や『ブラックブック』のような作品の方が撮っていて心地いいね」と明かした。
そんな流れから「セックスシーンは絵コンテを用意しなくてはいけない。それは重要な要素なんだ」と力説。「そういったシーンで一番やってはいけないことは、現場で裸をどうやって見せようかといった会話をするようなことだ。60人から70人いるような現場で裸になる俳優は本当に居心地が悪くなるからね。裸になる役者に不快な思いをさせてはならない。乳首を映すなら、まずは絵コンテを描いて、明確な意図を話すべきだ」とバーホーベン監督らしいアドバイス。熱っぽいトークの時間は大幅にオーバーしたが、観客はその言葉に熱心に耳を傾けていた。
「フランス映画祭2017」は6月25日まで開催。「エル ELLE」は8月25日公開。
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。