「秘密」大友啓史監督が明かす「リアルな漫画原作映画のつくり方」
2016年8月5日 12:00
[映画.com ニュース] 生田斗真、岡田将生、松坂桃李が共演する話題のミステリー大作「秘密 THE TOP SECRET」が、8月6日に公開を迎える。死者の脳内に残る記憶を映像化し、難事件を捜査する警察庁の特別機関「第九」の苦闘を描いた清水玲子氏の同名コミックを、斬新な映像表現と濃密なドラマで実写映画化した大友啓史監督が、映画.comのインタビューに応じた。
「『日常では見られないものをドキドキしながら見る』というのが、自分にとって映画の楽しみ方のひとつなんですね」と話す大友監督。映画化を決めた経緯を「人間の脳に入り込み、他者の記憶をのぞき込む。そう考えただけで、少し怖いけどドキドキしません? 他人の頭の中は見てみたいけど、自分は絶対に見られたくない、きっと誰もがそう思いますよね。そんな内容がある意味、見る側の好奇心を駆り立てるというか、劇場の暗闇で息を潜めて見る映画としてフィットするんじゃないかと。と同時に、記憶の持ち主の主観にまみれた脳内映像によって、(関わる捜査官たちが)混乱していくさまを描くことが、今までにない新しい物語になると思ったんです」と明かす。
「るろうに剣心」シリーズ3作で大成功を収め、今後も「ミュージアム」(11月12日公開)、「3月のライオン」(2017年公開)とコミック原作の作品が続く大友監督だが、単なる実写化映画にとどまらない濃厚なリアリティとドラマ性が高い評価を受ける。
「山奥にこもって世俗から離れ、自分の好きな道を追い求める──例えばそんな陶芸家のような生活に、ものをつくる人間ならだれでも憧れると思います。でも映画はひとりじゃできないですし、やっぱり世の中とつながって、関わり合いながら作っていくしかない」。元はNHKのジャーナリズム畑出身、「生きている以上は社会と地続き。そういう感覚を持っていないとダメな気がする」と語り、本作の脚本の執筆中に起こっていた社会的な出来事や犯罪事件にも、常に意識は影響されていたと公言する。「それは『るろうに剣心』や『龍馬伝』の時も同じ。時代劇だからこそ、逆に今の時代との共通点を明確に意識しましたね」というマインドこそが、フィクションでありながらも観客と地続きのリアルを感じさせる源と言えるだろう。「TPOを外したものを提供するのはプロとして恥ずかしい」という強い気持ちは本作でも変わらない。「(同時代を意識する作業は)脚本時、撮影時、編集段階と、その都度意識してやっていますね。常に時間との追いかけっこでしたけど(笑)」。
また、作品を通して「全部の登場人物の心情や成長が完結していなければならない」というのも信条。「もちろん脇役は主人公を立てるための“装置”として登場するんですが、彼らにもそれぞれの人生があって、全員がきちんと生きてこそ『秘密』ワールドが完成するんです」と言う。生田演じる主人公・薪剛の気分、岡田演じる捜査官・青木の気分、松坂扮する薪の親友・鈴木の気分と、それぞれの気分に没頭するために、“気分”ごとに書体を変えて印刷した脚本でチェックを進めたという。「人物全員に愛を注ぐというと綺麗すぎますけど、目配りすることで、見ている人にとって隣にある、自分を重ねられるような物語にしたい」というポリシーもまた、リアルな作品を支えているのは間違いない。
脳内記憶による難事件捜査のミステリーを筆頭に、秘密を抱えた登場人物たちの人間模様など、見どころが多い本作。大友監督は「『秘密』でやろうとしていることと近いと思った」というクリストファー・ノーラン監督の「インターステラー」を引き合いに出し、「ノーラン監督は僕らが暮らす地球を飛び出して、時空を超えた家族とのつながりをリアルに描いたわけですけど、僕らは逆に人間の体、“脳という小宇宙”に潜り込んでいきます。誰もが体内に持っているミクロコスモスの果てに何があるのか。生きている人間と死んだ人間が、ある思いを共有することでつながり合う、そういう境地にたどり着きたかったんです」と、本作に込めた思いを解説する。
「まずは生田くんや岡田くんら登場人物たちと一緒に、今までに乗ったことのないジェットコースターに乗り込んで、ハラハラドキドキ、2時間半の旅をするつもりで劇場に足を運んでいただきたい。そしてその先にたどり着くところ、精神の奥深くで人と人が生死を越えてつながり合うところまで、目を背けずにしっかり見ていただきたいですね」と観客への期待を語った。
「秘密 THE TOP SECRET」は8月6日から全国公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。