ベルリン2冠「薄氷の殺人」中国の新鋭監督「日本のドラマを見て育ってきた」
2015年1月9日 14:30

[映画.com ニュース]2014年第64回ベルリン国際映画祭で、「グランド・ブダペスト・ホテル」「6才のボクが、大人になるまで。」などの話題作を押さえ、最高賞の金熊賞と男優賞の銀熊賞の2冠に輝いた中国映画「薄氷の殺人」が、1月10日に公開される。長編3作目で栄光をつかんだディアオ・イーナンは、学生時代に日本のドラマを見て育ってきたと話す新進気鋭の監督だ。このほど来日し、今作の撮影を振り返るとともに成長著しい中国映画市場について語った。
1969年生まれ、コン・リー、チャン・ツィイーら数多くの映画、演劇人を輩出している中央戯劇学院で文学と脚本執筆を学んだ。「劇作家への憧れもありましたが、中国で演劇は、時に公演が中止されることもあります。それに比べて映画は、国内で上映できなくても、外国で見てもらえたり、DVDで見てもらうこともできる。自分の物語を語る可能性が広がるのではと思ったのです」と、映画界に進んだ理由を明かす。
2003年の処女作「制服」がバンクーバー映画祭で最優秀作品賞、07年第2作「夜行列車」はカンヌ映画祭ある視点部門で上映され、ヨーロッパで絶賛された。今作は、ロシア国境に程近い中国の地方都市で起こった未解決の猟奇殺人事件を発端に、元刑事の主人公が、魔性の色気を漂わせる謎の未亡人にひかれていく姿、秘められた殺人の真実を、詩的な映像でスリリングに描き出す。
原題「白日焰火」は、白昼の花火という意味。作品の大半が夜のシーンで、闇に浮かぶ歓楽街のネオン、極寒の地ならではのスケートリンクで起こる事件など、さまざまなショットが幻想的でミステリアスな雰囲気を醸し出している。

「今の中国の現実の景色を撮りました。私が撮りたかったのは、白く美しい雪景色ではなく、踏まれて汚れた雪。それによって映画の色調が決まってきました。暗くて、みすぼらしくて汚い。そういう場所から生まれる雰囲気を大切にしました。撮影中は、美しい映像にしようだとか、詩的な映像にしようということは考えていませんでした。とにかく、その場所の雰囲気をしっかりとカメラに収めたかったのです。その上で、シュールな感覚が出てくると思ったのです」
アメリカに次ぐ世界第2位の映画市場を持つ中国だが、作家性の強いアート系映画は国内で受け入れられているのだろうか。「中国の市場はだんだん大きくなって、金余り状態です。そのお金は一時期は不動産に流れていたのですが、最近はその余った金を映画に投資する人が増え、今映画業界でバブル現象が起こっていると言えます。アート系の作品を見る観客も増えてきていますし、国営の中央電影公司という会社が近々、アート系の映画館を中国各地に作るという政策を打ち出しています」
「マーケットは大きくなっていきますが、内容がそれに伴わないという状況も出てきています。そうすると、それほどクオリティが高くないものも劇場で上映されることになってしまいますね」との懸念もあるが、「映画業界バブルはいつかははじけるのではないかと心配ですが、13億も人口があるので、今しばらくは映画業界は活況を呈するのではないでしょうか」と中国映画の勢いは続きそうだ。
映画のプロモーションでは初の来日となるが、プライベートでは何度も日本を訪れているそう。「私のような40代の中国人は、日本の文化の影響を大きく受けています。中高生の時に、日本のドラマを見て育ってきたのです。当時は中日関係も良かったですし、日本に対しては思い入れがあります。日本人の友人も多く、とても親しみを感じています」
文学を専攻していたというだけあって、これまで影響を受けた日本の作家は枚挙に暇がない。「村上龍さん、吉田修一さんや、青山七恵さんなど最近の作品も読んでいます。前の世代の作家ですと、司馬遼太郎、太宰治、芥川龍之介、三島由紀夫、川端康成、樋口一葉、安部公房、林芙美子、もっと昔だと『源氏物語』……もっともっと挙げられますよ(笑)」。そして映画監督は「小津安二郎、黒澤明は言うに及ばず、成瀬巳喜男、木下惠介の作品が大好きです。篠田正浩さん、北野武さん、三池崇史さん、是枝裕和さん、河瀬直美さん……日本文化の話をすると、国境の壁はないと感じますね」とにこやかに語った。
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