モントリオール監督賞・呉美保監督が凱旋会見 原作者・佐藤泰志さんへの思い語る
2014年9月3日 20:25
芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞がかなわず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志さんの唯一の長編小説を、綾野剛主演で映画化。悲痛な過去にとらわれた男(綾野)が、ある女(池脇千鶴)と出会ったことで少しずつ再生していく姿を、北海道・函館のひと夏を通じて描き出した。
呉監督は、「受賞した瞬間は興奮した。英語のリスニングがよくできないので、池脇さんの『あっ!』という悲鳴で気づいた」といい、「受賞の瞬間もキャストと一緒に喜びを味わえてうれしかったけれど、日本に帰ってきて携帯の電源を付けた時にたくさんのメールや着信があり、今もこうしてお祝いしてもらい、改めて受賞を実感している」と心境を明かした。
トロフィーは、「真っ先に佐藤さんのお墓に持っていってほしいと思ったので、プロデューサーに函館へ持って行ってもらった。その後にこの会見があると聞いたので、一旦こちらに持ってくれば良かったかなと思いつつ、小説から映画に形は変わったけれど、佐藤さんの思いが少しでも報われたのかなと思った」と原作者・佐藤さんへの熱い思いを語った。日本映画での監督賞受賞は、「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」の根岸吉太郎監督以来となり、「根岸監督は大好きだし、大・大・大先輩。自分自身が同じ賞をいただきおこがましくもあるけれど、監督賞はみんなでいただいた賞」とロケ地・函館市民を含め、周囲への感謝を語った。
海外の観客からの反響も新鮮だったそうで、「細やかな機微など日本的な感情が伝わるのかなという不安もあったけれど、『人として普遍的な感情だと思う』と言ってもらえ、ちょっとほっとした。なかでも『苦しみと喜びの深い旅をさせてもらった』という感想が印象深い。作品を深く感じてくれる人が多かった」。
家族を描いた「酒井家のしあわせ」「オカンの嫁入り」に続く長編3作目となる本作だが、「縁あってこの作品のオファーを受けた。私の映画からは『セクシャルな部分を感じられない』と言われたこともあり、『私がどれだけエロいものを描けると思ってる?』と思っていたところだったので、男女の性愛に家族の要素も含まれた今回の原作には飛びついた。良いターニングポイントとなったと思う」と手応え。現在は4作目となる群像劇「きみはいい子」の編集中で、「色々な家族を描くことは、ひとつの家族を描いてきた自分にとって挑戦になる」と意欲を語った。
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