役所広司&小松菜奈が語り尽くす、中島哲也監督と過ごした濃密な時間
2014年6月27日 18:10

[映画.com ニュース]映画にエンタテインメント性と作家性を共存させ、さらに毎作ヒットを飛ばしてしまう日本映画界の異端児中島哲也監督が、4年ぶりに手がけた劇映画「渇き。」で再び観客を驚がくさせる。そこにベテランの実力派・役所広司と、本作で女優としての才能を開花させた可憐な新星・小松菜奈が加われば、まさに“鬼に金棒”といったところ。そんな2人が間近で目撃した中島組の秘密を探る。(取材・文/山崎佐保子、撮影/根田拓也)
原作は、中島監督が読んだ直後に映画化を熱望したという作家・深町秋生氏の第3回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作「果てしなき渇き」。ロクデナシの元刑事・藤島昭和(役所)が、突然失踪した高校生の娘・加奈子(小松)の消息をつかもうと独自の調査に乗り出すが、優等生だったはずの娘の恐ろしい“素顔”を知るにつれ、愛憎入り交じる狂気に取りつかれていく。
とにもかくにも、「まずは中島監督が撮るということ」から役所の出演は決まった。「もちろん脚本もすごく興味深くて、こんな映画に出てみたい、こんな人物を演じてみたいと思った。俳優はみんな変わった役をやりたいし、いつも同じ役じゃ飽きちゃう。なので全く新しい、新鮮な気持ちで現場に入れました」という。前作「パコと魔法の絵本」では、“奇人”たちに囲まれながら偏屈な大富豪を豪快に演じた役所。本作では、それをさらに上回る“狂人”たちに囲まれながら獣のような最低オヤジを怪演している。
「今回もまた強い芝居を求められているんだなと思った。『パコ』の時はああいう派手な扮装だから普通の芝居じゃ弱すぎるというのも分かったけど、今回もすましたものじゃなく“ガツガツ”した芝居、有り余るエネルギーのようなものを中島監督が欲しているのを感じましたね」と全身全霊で期待に応えた。
これまでにも、「下妻物語」(04)の深田恭子&土屋アンナ、「パコと魔法の絵本」(08)のアヤカ・ウィルソン、「告白」(10)の橋本愛ら、独特の鑑定眼で若手女優の魅力を発掘してきた中島監督。今回白羽の矢が立った小松は、「初めての映画でこんなにも素晴らしい俳優さんたちと共演できることは、やはり貴重な体験。難しい役どころだけど、良いチャンスをもらえてすごくうれしかった。濃くて長い濃密な3カ月、撮影中も撮影後もずっと緊張していました」と振り返る。天使なのか悪魔なのか、この物語の最大のカギを握る“バケモノ”と謳われる強烈な役柄だが、「初めて脚本を読んだ時、キスシーンが6人とあるんだなって、つい数えちゃった(笑)。初めての映画で6人とキスシーンというのはやはり衝撃的で……。でも一体どんな撮影になるんだろうって、とにかく楽しみでもありました」と堂々たるもの。最終的には、妻夫木聡、二階堂ふみ、橋本愛、オダギリジョー、中谷美紀ら、豪華キャストによる“最狂”の布陣が完成した。

役所も、「中島監督は『直感的に小松さんを加奈子だと思った』と言っていた。一見“いい子風”に見えるのはいいことで、でもそれだけだとダメなんです。小松さんは美しい。だけど、その美しさの中に危うい怖さみたいなものもある。親父たちがうるさく怒鳴り散らしている大人の世界で、爽やかに笑っている。そっちの方が怖いかもと思わせる表現には、小松さんしかいなかったんじゃないかな。加奈子の笑顔が一番怖かったよね(笑)」と納得の表情だった。
すっかり“鬼監督”のイメージが定着している中島監督だが、初映画が中島組というのはさぞかし過酷な経験だったのではないかと想像してしまう。しかし意外にも、小松は「周囲からも怖いと聞いていたので覚悟していたのですが、私が緊張しているのが分かるみたいで、緊張させないような現場作りをしてくれました。すごく優しい方で、怖いという印象はなかったですね」という。役所は「優しいですよ。女優さんには特に(笑)」と冗談をはさみながら、「スタッフの人には暴言に近いきつい言葉もぶつけるけれど(笑)、そこにも愛情を感じるんです。だからみんな笑って受け止めている。端から見ると怖い監督と思うかもしれないけど、それは中島監督の粘り強さそのもの。カメラのアングルやサイズ、照明、ひとつひとつ確認しながら、『他にもっとないか?』とスタッフに考えさせる」と練りに練るのが中島監督。そのことを裏付けるエピソードとして、「スタジオで編集している時にちょこっとのぞいたら、『そこ2コマ戻して』とかものすごく細かい指示を出していた。中島さんは全てのプロセスにおいて、自分のビジョンをしっかりと把握しているんだなと改めて感じましたね」と明かした。
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