ドキュメンタリーと劇映画の境目とは…原一男、崔洋一、ヤン・ヨンヒ、入江悠が激論
2013年10月16日 08:00

[映画.com ニュース]山形県内各所で開催中の山形国際ドキュメンタリー映画祭2013で、日本映画監督協会とスカパー!共同企画による特別対談「ドキュメンタリー映画の地平線」が10月14日に行われ、原一男、崔洋一、ヤン・ヨンヒ、入江悠という4人の映画監督たちが「ドキュメンタリー映画は世界に対して何ができるのか」をテーマに激論を交わした。
この日の議論の中心となったのは「劇映画とドキュメンタリーの境目」について。そのテーマを踏まえて自身の代表作「ゆきゆきて、神軍」を振り返った原監督は「あの時、自分でもなぜかは分からないが、(同作の被写体であるアナーキストの)奥崎謙三を主人公にした劇映画のように撮りたいと思っていた。しかし僕がそう思った以上に、奥崎さんには主人公になりたいという被写体としての願望が強かった」と述懐する。
同作には「独居房を自宅に作りたいから、寸法を測らせてくれ」と神戸拘置所に奥崎が押し掛ける場面がある。「撮影の許可をとったのか」という神戸拘置所の警備員たちに対して、「許可をとるために撮影しているんだ」と主張する奥崎。そしてそんな押し問答の末に警備員たちを「きさまたちはロボットと同じだ!」と恫喝する奥崎の姿が印象的に使われている。しかしそのシーンの裏側では、ひと悶着を終えた奥崎が笑顔で「今の私の演技はどうでした?」と原監督に聞いてきたのだという。これには原監督も「ショックでしたよ。しかもその後、キネマ旬報の主演男優賞で奥崎さんが第2位になってしまった。なんだこれはと思いましたね」と虚実入り混じる不条理な状況を明かし、場内の笑いを誘った。
それを聞いたヤン監督が、朝鮮総連の幹部として金日成に忠誠を誓ってきた父親を追ったドキュメンタリー「ディア・ピョンヤン」の中のエピソードを思い出した、というひと幕も。北朝鮮と日本を結ぶ不定期便「万景峰号」に乗った父親が、遠くに見える祖国を眺めているときのシーンだったそうで、「スーツ姿に金日成バッジをつけている父が、船のデッキで遠くに見える祖国を眺めていたんです。それをしばらく撮っていたら、父が『もうええか?』と。そんなことを考えていたのかと腰が抜けそうなほどにビックリした。カメラを向けると誰でも演技をするんだと思った」と振り返る。
そしてトークショーの終盤では、山形国際ドキュメンタリー映画祭の発案者で、「三里塚」シリーズで知られるドキュメンタリー映画界の巨匠である「故小川紳介監督が崔洋一監督と一緒に劇映画を作ろうと言ったというのは本当ですか?」という質問が観客の中から飛び出し、崔監督も「それは事実」と認めた。「青梅街道沿いで、車がガンガン通る中で僕を見つけた小川さんは『崔! 俺、劇映画をやるから、助監督をやれ』と。彼は真剣に僕を助監督にするつもりだったと思います」と幻の企画について語った。この日のトークイベントは、10月20日午後8時からBSスカパー!で放送予定(再放送あり)。山形国際ドキュメンタリー映画祭2013は、17日まで開催中。
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