比較写真で検証する山田洋次監督の「東京物語」へのあふれるオマージュ
2013年1月4日 11:00
瀬戸内海の小島で暮らしていた平山周吉(橋爪功)と妻とみこ(吉行和子)が、成長した子どもたちに会うために上京する姿を通して「現在の家族のあり方」を描く同作は、「幸福の黄色いハンカチ」や「男はつらいよ」「学校」シリーズ、「おとうと」などでさまざまな日本の家族の姿を描いてきた山田監督の新たな家族ドラマの一作だ。東日本大震災に伴い脚本にも変更が加えられ、撮影も延期されたが、戦争の傷跡から復興していった時代に作られた「東京物語」と同様に、震災で大きな傷を抱えた現代の日本で生きる家族の姿を描くことになった。
自身もすでに名匠と呼ばれる山田監督だが、「東京家族」製作にあたっては、「素晴らしいお手本なので、うんと参考にしたし、精一杯、真似をしようと思いました」と、不朽の名作である「東京物語」に最大限の敬意を表した。実際に2つの作品を並べてみると、小津監督へのオマージュであふれたシーンがいくつも見つかる。
その中の代表的な例が、ひとり爪を切る周吉の場面だ。撮影期間中、山田監督は「小津さんと会話を交わすような気持ち」で、繰り返し「東京物語」の映像を見てきたという。このカットは「東京物語」で笠智衆さんが演じた周吉の最後のカットを念頭に、3カ月におよんだ撮影期間の最終日に撮影された。今作で周吉を演じた橋爪も「劇団をやっていた30代前半までは舞台が楽しくて、楽日が近づくともっとやっていたいと思っていた。今日も久しぶりに終わりたくないと思った。芝居が好きだというのを思い出した」と述懐。監督にとっても役者にとっても、印象深い場面のひとつであることがうかがえる。
また、「東京物語」で夜明けの空を眺める周吉と紀子(原節子)のシーンは、周吉と次男の昌次(妻夫木聡)が同様に夜明けの空を眺めるシーンとして描かれている。そのほか、久々に集まった平山家の団らんの様子や居酒屋で旧友と語らう周吉の姿など、数々の場面で「東京物語」への敬意が見てとれる。
山田監督は、小津監督の「東京物語」を「ひとつひとつのシーンをじっと見て、アングルなど細々としたことから映画を学び取っていきました。人物を突き放して客観的に見るのではなく、入り込んで人物を見られる映画なのです」と評する。そして、「小津さんのクローズアップの撮り方にそれが顕著に表れています。バストから上の正面のアップが小津さんにおけるクローズアップ。普通は正面からは俳優を映しません。これは小津さんだからできることなのです。僕もそれを真似したかったけど、なかなか小津さんのように真正面からは撮れませんでしたが、きちんと人物と対面できるような感覚は大切にして、『東京家族』という映画を作りました」と、「東京家族」へ込めた思いを話している。
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