西川美和監督、デビューから最新作、その先の未来を語る
2012年9月7日 22:00
[映画.com ニュース] 最新作「夢売るふたり」の公開を記念し9月6日、東京・新宿ピカデリーで西川美和監督のデビュー作「蛇イチゴ(2003)」が特別上映され、西川監督がトークショーを行った。同作は香典泥棒の長男が、一家の平穏な日常にさざ波を立たせるシニカルな悲喜劇。西川監督が脚本を執筆し、第58回毎日映画コンクールの脚本賞を受賞。一躍脚光を浴びた同作を、「今日9年ぶりに見ました。家にあるDVDの封も切っていないし、今見ると欠点ばかりに目がいってしまう」。それでも「デビュー作なので、自分がやりたいことや興味が余すところなく出ている。きっと、これが(自分の)すべてなんでしょうね」としみじみ語った。
大学在学中に是枝裕和監督の「ワンダフルライフ」にスタッフとして参加し、その後は多くの監督のもとで助監督などを経験。是枝監督のプロデュースによる「蛇イチゴ」で監督デビューを飾った。ただ、それ以前は「助監督の経験から、現場を仕切る監督業は向いていないと思っていた」といい、脚本家としてのキャリアを模索していた。「当時、是枝さんには『活きのいい20代の監督を輩出したい』という思いがあって、誰でも良かったなかで、私に監督の話が来た。だから、最初は嫌だったんです」とデビューのいきさつを明かした。
「予算は3500万円。登場人物も時間も空間も限定し、2週間くらいで撮った」という同作は、第58回毎日映画コンクールの脚本賞をはじめ、第25回ヨコハマ映画祭の新人監督賞や2002年度新藤兼人賞の優秀新人監督銀賞などを受賞。今でこそ「セリフが多いし、登場人物がしゃべり過ぎているなと思う」と反省点を挙げるが、「監督が嫌だったと言う割に、乱暴で大胆な演出だった」と不敵な笑みも。その後は「ゆれる」「ディア・ドクター」とオリジナル脚本で勝負に挑み、国内外で高い評価を得て、日本映画界で最も注目を浴びる映画監督のひとりとなった。
松たか子と阿部サダヲが共演する最新作「夢売るふたり」は、火災ですべてを失った夫婦が再起をかけて“結婚詐欺”に手を染めていくヒューマンドラマ。他人を欺くというテーマは「蛇イチゴ」から共通しており「自分は変わらないなと思う」というが、女性を主人公に据えるのは今回が初めて。「私自身、女性の残酷さやずるさは、根っこの部分まで知っているから美化できない。同属嫌悪だらけの映画ですよ(笑)。でも今までに比べると、女性を温かくも描いていて、ちょっと新境地かなって」と自己分析する。
「1作ごとに違うことがやりたくなる」と語る西川監督は、最近鑑賞したというジャン=ピーエル&リュック・ダルデンヌ兄弟の「少年と自転車」を例に挙げ「物語としては最小要素で、子どもがもつ本質と大人がもつ悲しさやずるさがきちんと描かれていた。いつか私も『蛇イチゴ』のようなミニマムな世界観でまた(映画づくりを)やってみたい」と目指す未来を語っていた。
「夢売るふたり」は、9月8日から全国で公開。
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