「ゼロ年代」「復讐」のその先を描く、瀬々敬久監督「へヴンズストーリー」
2010年10月22日 17:17

[映画.com ニュース] 「ユダ」「感染列島」「ドキュメンタリー 頭脳警察」などで知られる鬼才・瀬々敬久監督による上映時間4時間38分の大作「へヴンズストーリー」が絶賛公開中だ。本作は、複数の殺人事件の被害者遺族、加害者ら総勢20人の登場人物が10年の時の流れのなかで複雑に絡み合っていく姿を描いた全9章からなる壮大な群像劇。全9章の大長編というと、クシシュトフ・キエシロフスキー監督による全10章10時間の「デカローグ」が思い浮かぶが、瀬々監督は当然意識しながら本作を撮ったという。
「『デカローグ』って、子どもが死ぬような悲惨な話が多いんですが、その中でちょっと救いみたいなものが挿入されているんです。キエシロフスキーの映画は全般的に不思議なことがよく起こるんですけど、そういう感覚が好きなんですよね。この映画も悲惨なことばかりがあるのではなく、世界を少し違うところから見ているような感じを与えたかったので『へヴンズストーリー』というタイトルにしました」
「デカローグ」同様、団地をメインの舞台にするため、荒木経惟による写真集を片手に、関東のありとあらゆる団地を回ってロケハンをしたという瀬々監督。その中で、老人と子どもしかいない過疎化の進む団地や、殺伐としたシャッター商店街、アメリカナイズされた郊外の風景を目の当たりにし、「2000年代で生きるということはどういうことなのか」が裏テーマとして浮かび上がってきた。
「90年代はオウムの事件、阪神大震災、酒鬼薔薇事件などがあって、世紀末だなんだと騒いでいましたが、2000年代に入ったら、そういうことがなかったかのように人々は生きている。でもその中で、僕たちは何か釈然としない重いものを抱えている。そんな99年から2010年に至るまでのつながっているようで離ればなれな空気感を、土地とキャッチボールをしながら物語の風景として取り込んでいければと思っていましたね。舞台を団地にしたのも僕らの住んでいる世界の縮図というか、日本社会全体の縮図という感覚で設定しました」
また本作は、これまで映画というメディアで散々使い古されてきたテーマである「復讐(ふくしゅう)」を、被害者遺族、加害者の関係を通し、改めて見つめ直した作品でもある。
「21世紀に入ってから僕たちの身の回りで起こった多くの殺人事件や、9・11後のアメリカとイラクの関係を見ていると、『やられたらやり返す』という方法だけで物事を考えても、もはやどうしようもなくて、その事件や復讐が終わった後のことを考えなければならない時代に入っているわけです。映画をつくっている人間としては、世界がそういう問題に直面していたら、やはり映画もそこを描かなければ駄目だと思います。『ミュンヘン』にしたって、『やられたらやり返す』ということを描いていて、スピルバーグも“それ以降”を語りたかったはずですが、結局は語られなかった。僕らは、“それ以降”の物語を語らなければならないと思うんです」
「へヴンズストーリー」は全国順次ロードショー。
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