韓国の巨匠イ・チャンドン、5年ぶりの復帰作「シークレット・サンシャイン」
2008年6月6日 12:00

[映画.com ニュース] 最愛の一人息子を誘拐事件で亡くし、心に傷を負ったシングルマザーのシネ(チョン・ドヨン)と、彼女を優しく見守る男ジョンチャン(ソン・ガンホ)の見えない絆を描いた「シークレット・サンシャイン」が間もなく公開される。「ペパーミント・キャンディー」「オアシス」で知られ、03年から07年にかけて文化観光部長官という公職に就いていた韓国映画界の巨匠、イ・チャンドン監督に話を聞いた。
撮影にあたり、俳優に演技のディレクションは一切せず、「水が何かに染み込むように、その人物の心を感じ取って自発的に動いて欲しい」とだけ話したというチャンドン監督。これは自分の指示が、彼らの演技の邪魔になるのを恐れてのこと。主演のドヨンは、この演出法に葛藤もあったようだが、次第に心の均衡を失うヒロインを、役柄が憑依したかのように熱演した。「ドヨンは人間として見た場合、自信満々で情熱的にいろんなことに取り組む人に見えると思う。でも私からすると、誰よりも脆くて傷つきやすいものを内面に隠し持っているような気がするんだ。彼女にそれを話したら、『そんなはずはない』と否定した。私はその強がる様子がシネそのものに見えたよ」。監督の言葉を借りれば、「撮影中、シネとして生きていた」ドヨンが、07年カンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞したのも当然の結果かもしれない。
劇中、シネには厳しい現実が突きつけられるが、監督は「そもそも人生の価値は現実の中だけで見出すしかない。だからこの映画の中で現実をどのように切り取ればいいのかが重要だった。それが作り手である私にとっての始まりであり、終わりだったんだ」と語り、影響を受けた監督として「現実を見事に切り取る天才」と名匠ジョン・カサベテス監督の名前を挙げた。
「観客には、僕の“長官出身”という肩書きを早く忘れて欲しい」と笑う監督。公職についていた5年間は、韓国映画界の現状について客観的に見ていた部分もあったようで「最近は、ごく一部の限られた人たちしか理解できない作品が多い。そもそも映画というのは観客と意志の疎通をはかり、向き合うものだと思う」と述べた。「韓国映画界は産業的に危機的状況にあるが、本当の危機は創意性やチャレンジ精神の欠如。私自身も“作るために闘っているか、楽をしていないか”と常に自問自答しているんだ」
「シークレット・サンシャイン」は6月7日公開。
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