劇場公開日 2008年6月7日

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シークレット・サンシャイン : 映画評論・批評

2008年6月3日更新

2008年6月7日よりシネマート六本木ほかにてロードショー

個人の葛藤と狂気、そして既製の価値観が揺らぐ社会や時代も浮き彫りに

歴史や社会の変化に敏感なイ・チャンドンの新作でまず興味深いのは、この監督が映画のもとになった小説に、光州事件に関わる政治的な寓意を読み取っていることだ。彼は、もはや寓意が成り立たない現代を背景に、あえてそんな小説から物語を紡ぎ出している。

物語の鍵を握るのは、ヒロインの亡夫の故郷である地方都市ミリャン(密陽)だ。ソウルを離れ、亡夫の故郷で再出発しようとした彼女は、息子の命を奪われ、信仰に救いを求め、狂気に囚われていく。だが、それらを偶然の悲劇と言い切ることはできない。

すでに再出発の時点で、ヒロインと現実の間にはズレがある。確かに彼女は夫を愛していたが、やがて結婚生活が幸福だったわけではないことが明らかになる。亡夫の故郷はそんなズレを押し広げていく。彼女は、“秘密の陽射し”を意味するミリャンに期待を寄せるが、そこは平凡な町でしかない。それでも人生や愛に執拗なまでに特別な意味を求める彼女は、現実遊離し、悲劇を招き寄せてしまう。

チョン・ドヨンの鬼気迫る演技に圧倒されるこの映画は、喪失に苛まれるある個人の壮絶な葛藤と狂気だけではなく、既成の秩序や価値観が揺らぐ社会や時代も浮き彫りにしている。

(大場正明)

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