人間の境界

劇場公開日:

人間の境界

解説・あらすじ

「ソハの地下水道」などで知られるポーランドの名匠アグニエシュカ・ホランドが、ポーランドとベラルーシの国境で“人間の兵器”として扱われる難民家族の過酷な運命を、スリリングな展開と美しいモノクロ映像で描いた人間ドラマ。ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす目的で大勢の難民をポーランド国境に移送する“人間兵器”の策略に翻弄される人々の姿を、難民家族、支援活動家、国境警備隊など複数の視点から映し出す。

「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報を信じ、幼い子どもを連れて祖国シリアを脱出した家族。やっとのことで国境の森にたどり着いたものの、武装した国境警備隊から非人道的な扱いを受けた末にベラルーシへ送り返され、さらにそこから再びポーランドへ強制移送されることに。一家は暴力と迫害に満ちた過酷な状況のなか、地獄のような日々を強いられる。

キャストには実際に難民だった過去や支援活動家の経験を持つ俳優たちを起用。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した。

2023年製作/152分/G/ポーランド・フランス・チェコ・ベルギー合作
原題または英題:Zielona Granica
配給:トランスフォーマー
劇場公開日:2024年5月3日

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(C)2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Ceska televize, Mazovia Institute of Culture

映画レビュー

4.0誤解を恐れずに言うならば、映画としても面白い

2025年3月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

とても面白く、よくできた映画でした。モノクロが美しい。やはりモノクロは、このように撮るべきという見本のような映画。

群像劇で、視点がそれぞれ変わって、それぞれがリアルで切実。

人間を兵器として使うという発想に驚く。ベラルーシは、シリアから難民を受け入れ、それをEUに混乱を起こす「人間武器」として難民を無理やりポーランドに送り込む。
それを不法難民としてまたポーランドはベラルーシに送り返す。物じゃなく、人なのに。物扱い。一人一人に意志があり、泣き笑いがあり、痛みや苦しみがある。そして衰弱、事故などで死んでゆく。苦しみや悲しみは、規制する国境警備員にも、難民支援者グループにも。それらを丁寧にリアルに描き出す。

ラスト近くで、救出した若い難民と受け入れた家庭で、そこの同世代の姉弟たちとラップで交流するシーンは白眉。「千人の人に、千人の死」とかいうラップ。難民やそれに関係する人たち、それぞれに人生があり、生きている人間であると歌い上げているよう。映画的な高揚感があるシーン。

と、結構映画としてドラマあり、サスペンスあり、笑いがあり、切なさがあり、誤解を恐れずに言うならば、映画としても面白い。

監督は、この国境のイザコザ(2021年の出来事)を、最初ドキュメンタリーとして考えていたらしいけど(撮りためていた)、ポーランド政府は隠蔽しようとしていて、ドキュメンタリーとして制作が難しいと判断して、それならば、起きた現場でなくても撮れる劇映画として、作ればいいと考えたとのこと。で、現実の当事者も役者として参加しているという。
公開後は、ポーランド政府からの妨害にもあったとか。

凄いね。映画を作る意志が。それと映画の力がすごい。

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mac-in

4.0難民をめぐる新たな政治的側面を描き世界秩序の在り方に問題提起する労作

2025年1月14日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

1 難民をめぐる世界の状況
 NHK映像の世紀によると、難民が世界的に注目されたのは第一次世界大戦とロシア革命の頃からである。特に革命後ソビエトには旱魃、寒波が襲来した結果、死体の山が積み上げられる中、市場で塩漬け人肉が売られ、泥のパンを食べていたという。
 こうした状況に対処するため国連難民高等弁務官が設置され、世界中から寄付を集めて彼らの救済に乗り出していく。
 その後、ナチス台頭に伴うユダヤ難民、第二次世界大戦の被災者6,000万人があり、東南アジアではベトナム戦争によるベトナム難民、インドシナ難民、ボートピープル、東西冷戦終了後はボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の難民、中東のクルド難民、シリア内戦の難民、、アフリカの人種間紛争の難民等々に世界は直面してきたのだが、数年前に世界の難民・避難民は1億人を超えてしまった。

2 難民と映画
 映画というジャンルでも難民問題は数多く取り上げられてきて、特にレバノン難民を取り上げたドゥニ・ヴィルヌーヴ『灼熱の魂』、アフリカ難民の内面の悲劇を描くレミ・ウィークス『獣の棲む家』は印象深かった。そして本作ということになるのだが、ポーランド発のこの映画は従来のヒューマニズム一辺倒とは違う難民の政治的側面を取り上げた労作だと思う。

 扱われているのはベラルーシと国境を接するポーランド、リトアニア、ラトビアに雪崩れ込んでくるイラク、シリア、トルコ難民である。シリアから2,000キロ以上も離れたベラルーシに何故、大量のシリア難民がいるのか。それが従来の難民とはまったく異なるこの問題の政治的側面だ。

3 難民の新たな政治的側面を描く本作
 ソ連崩壊後、永らくルカシェンコ大統領の独裁体制が続くベラルーシをEU諸国は非人道的だと非難し、経済制裁を課してきた。これに対して同国はトルコやイラクとの航空便を利用して大々的に移民ツアーを実施。迫害された人々をわざわざ集め、彼らをEU圏に送り出すことにより、EUを攻撃し始めたのである。まさに「人間兵器」だ。

 当然、ポーランド等もこうした移民は受け入れ難いので鉄条網で阻止しようとし、時にはかなり厳しい方法で越境した難民を追い帰す。するとベラルーシは「お前たちに非人道的と非難する資格があるか」と嘲笑する、という具合である。そしてロシアのウクライナ侵攻後は、ウクライナからの難民も急増し、今度はルカシェンコの背後にいるプーチンがEUをせせら笑う。

 こうした実態に対処しなければならないポーランド、ひいてはEU諸国の困難な状況は、もはやヒューマニズムやグローバリズムで誤魔化せないところまで来ている。難民を大量に受け入れた反動により、極右勢力が伸展する等の政治情勢の不安定化が生じているからである。本作はそうした実態を難民、兵士、保護団体、無関心な国民等の多角的な視点から、きちんと描いている。

 同様の事態は米国、メキシコ国境でも生じており、ハリスがトランプに負けた一因とも言われるし、勝ったトランプは「不法移民を追い帰す」と公約している。
 巨大核保有国が拒否権を連発して、片や大量の難民を生み出し、片や大量の難民を排除するという国連組織の限界が明白な今、世界秩序に関する問題設定は、いったいどの程度の混乱で済むかというのがいちばん正しいだろう。

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徒然草枕

5.0タイトルなし

2025年1月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

モノクロ。冒頭から引き込まれる。
金が欲しいやつらかとおもったら、外国人ヘイト。難民の現実。
多面的に描いていて素晴らしい。
EUとベラルーシの間の政治的道具。
ナチを思い出させる。夜の闇、光、怒号、犬の鳴き声、人々の泣き声。
しかも死なせてはならない、責任逃れする両国。民主主義世界でのこの駆け引きが醜い。
後半、光はさすのだけれど、ウクライナとベラルーシの違い。

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えみり

4.0生かさず、殺さず‼️

2024年12月20日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

2021年。
ベラルーシ政府はEUに混乱をもたらす目的で、多数の難民を、
ポーランド国境に送り込んだ。
ベラルーシ政府の政策を間に受けてポーランド入国を目指す
シリア難民の家族たちと、難民をピンポン玉のように
投げ返すポーランド政府はそれを拒否する。
国境で難民の入国を阻止する国境警備隊。
そして難民を支援するポーランドの活動家。
難民のかぞく。
この3つの視点から難民支援のあり方と現状を描いた映画です。
ベラルーシとポーランドの国境は原生林が阻んでいて、
夜の原生林の闇は漆黒で本当に暗い。

国境近くに自宅を持つ精神科医のユリアはある日、犬の散歩をしていて、
国境の立ち入り禁止区域の沼地に潜んでいた難民を保護する。
それをキッカケに活動家としての運動にのめり込んで行きます。
活動家仲間の反対を押し切って《禁止区域》に入り難民を逃そうとして、
警察に検挙されてしまう。
嫌がらせの身体検査を受け勾留されるが、
ユリアの怒りはもう止められない。
立派に難民支援活動家に成長している。
エピローグで、
2022年2月のロシアのウクライナ侵攻が起こり、ウクライナの難民、
200万人がポーランドに押し寄せた。
全世界の紛争で難民は増え続けている。
国連の活動もEUの支援も、「生かさず、殺さず」
難民は、
「千の死を死ぬ」と嘆く。
誰も本気では助けてくれない。
★ポーランド本国で上映妨害を受けた問題作。
監督はポーランドの巨匠アグニシュエカ・ホランド。

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琥珀糖