愛を耕すひと

劇場公開日:

解説・あらすじ

マッツ・ミケルセンが母国デンマーク開拓史の英雄を演じた歴史ドラマ。デンマークの作家イダ・ジェッセンが史実に基づいて執筆した小説を原作に、「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」でもミケルセンとタッグを組んだニコライ・アーセル監督がメガホンをとり、「ライダーズ・オブ・ジャスティス」のアナス・トマス・イェンセンが脚本に参加した。

18世紀デンマーク。貧窮にあえぐ退役軍人ルドヴィ・ケーレン大尉は、貴族の称号をかけて荒野の開拓に名乗りをあげる。それを知った有力者フレデリック・デ・シンケルは自らの権力が揺らぐことを恐れ、あらゆる手段でケーレンを追い払おうとする。ケーレンは自然の脅威とデ・シンケルの非道な仕打ちに抗いながら、デ・シンケルのもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラや、家族に見捨てられた少女アンマイ・ムスと出会い、家族のように心を通わせていく。

ドラマ「レイズド・バイ・ウルブス 神なき惑星」のアマンダ・コリンがアン・バーバラを演じ、「シック・オブ・マイセルフ」のクリスティン・クヤトゥ・ソープが共演。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。

2023年製作/127分/G/デンマーク・ドイツ・スウェーデン合作
原題または英題:Bastarden
配給:スターキャット、ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2025年2月14日

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(C)2023 ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, ZENTROPA BERLIN GMBH and ZENTROPA SWEDEN AB

映画レビュー

4.0居場所を求めて

2025年2月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 みんな大好き、マッツ・ミケルセン。待ちに待った主演作がようやく公開…!と、家族揃っていそいそ某シネコンに向かった。ハリウッド大作での悪役や「ライダーズ・オブ・ジャスティス」等のマッチョぶりが印象的な子らには、本作のマッツは少し意外だったらしい。とはいえ、さすが!やっぱり!な、彼の魅力あふれる作品だった。
 時は18世紀。プロイセンとの戦いに敗れ、国土の半分弱を失ったデンマークは、ユトランド半島の開拓をの余儀なくされた。農民上がりの退役軍人・ケーレン大尉は、起死回生を狙うべく、先人たちが断念してきたヒースの開墾を名乗り出る。(キリスト教思想家・内村鑑三が「デンマルク国の話」で紹介している技師・軍人のエンリコ・ミリウス・ダルガスが、彼のモデルと思われる。)過酷な自然に加え、鼻持ちならない若き地元領主が何かと横槍を入れ、行く手を阻む。なぜここまでして…と思いたくなるが、彼には帰る場所がない。とにかく留まり、荒地を耕すほかないのだ。
 物語は、大きな苦難を仲間と乗り越えハッピーエンド…とはいかず、一進一退を繰り返す。広がる空もケーレンの表情も、ひたすら重たく、暗い。唯一明るい光が差すのは、中盤で彼らがわずかに手に入れる、擬似家族のような関わりだろうか。そんな時間も長くは続かず、彼らは幾度となく、様々な人の悪意にさらされる。それでも、ケーレンは怒らない。消え入りそうな命をつなぐために殺された羊や、意味もなく殺戮された馬のつぶらな瞳の方が、むしろ雄弁に生気を放つ。彼が感情を露わにするのは、冷徹な大地に対してのみ。ちいさな芽吹きにほほえみ、霜におびえ、雹に涙する。彼はそうやって少しずつ、人間らしさを取り戻していったのかのかもしれない。
 終盤、眉ひとつ動かさず、道を阻む者に発砲するケーレン。返り血を盛大に浴びながら、復讐の道を突き進むヒロイン。「なんか、『ジャンゴ』みたいだったー!」という子の発言に、驚きながらも納得。ドライアイスのように、低温やけどしそうなマッツの情念が、スクリーンにみなぎっていた。
 名誉を捨て、土地を離れ、より確かな居場所を手に入れた彼らのまなざしが、今も心に残る。

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cma

4.0黙して語らず、挫けず、というキャラはマッツの独壇場

2025年2月19日
iPhoneアプリから投稿

泣ける

マッツ・ミケルセンがかつては荒野だった母国デンマークの大地にじゃがいもを植え、育て、そして収穫することで実りをもたらした実在の偉人を演じている。主人公はこの一見気が遠くなるような作業をひたすら黙々と、権力による言われのない横槍に耐えつつ遂行していく。これはマッツが過去に演じた『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(本作と同じニコライ・アーセル監督作)や『偽りなき者』等、黙して語らず、ただ己の信念に従うのみ、という人物像と通底する。この種のキャラクターを演じさせて、マッツ以上の敵役を思いつかない。何しろ、彼には観客の怒りと希望と共感を一身に引き受けて、引っ張っていく牽引力があるのだ。

デンマークの近代史が学べる本作は、同時に、人の心の中に蔓延る根拠のない人種差別を指摘し、カオスの最中にあるヨーロッパの今を予見している。そこに、この映画が今作られた意味を見出した。最後に用意された痛快なエンディングも、"生きていく上で最も大切なものは何か?"という究極の命題を観客に突きつけてきて、納得の1作なのだった。

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清藤秀人

5.0耕したモノが永続的に実を結び続けるとは限らない現実の苦さ

2025年2月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

外部から来た開拓者ケーレン大尉が
地域の有力者のシンケルに何度となく危害を加えられるが、
屈することなく忍耐強く開拓を進めていく。

有力者シンケルはなかなかの外道で、ときに残酷で容赦ないので、
主人公が立ち向かって逆襲するシーンではスカッとする部分もあるが、
一方で多くの犠牲も払うため、苦さも残り、笑顔にはなれない。

なによりこの映画を印象深いものにしているのは、
主人公ケーレンが徐々に大切さに目覚めていく愛が、
開拓で対峙する自然や気候と同様にときに予想外に行き来するもので、
農作物のようにどれだけ心血を注いで耕しても、
必ずしも永続的に実を結んでくれないという苦さを
対比させて描いている部分にあると感じた。

馴染みのないデンマークの歴史や習俗の一端に触れられるのは面白く、勉強になります。

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HK

5.0歴史ものだが、今に通じる優れたドラマ

2025年2月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

楽しい

興奮

 歴史ものが好きな人も、普段は現代劇しか見ない人も、デンマーク史をよく知らなくても十分に楽しめる高度なドラマ展開。美しい大地の映像と壮大なカメラワーク、キャストは一流、監督はよく知らなかったけれどトップランク。素晴らしい映画でした。
 なぜ、主人公のルドヴィ・ケーレンがドイツ兵だったのか。傭兵のような扱いではないので不思議で調べたみたのですが、当時のデンマーク王はドイツ・ホルシュタイン公爵領を保持し、ドイツ領での軍事作戦に参加していたらしいので、実在のケーレンもホルシュタイン連隊で昇進をめざしたようです。

 史実に基づくイダ・イェッセンの小説「キャプテンとアン・バーバラ」が映画の原作。当時の世相を反映していますが、フェミニズムとDEIの視点から女性・弱者が重要なキャラクターとして創作され、単なる歴史小説ではないという海外書評欄の評価です。

 映画のキーワードとして、「辺境」「差別」「権力」「分断」「家族」「尊厳」「暴力」などが想起されました。今、ウクライナやパレスチナで行われている理不尽な暴力や米国・日本で行われているよそ者いじめ問題に通じていて、他所から来た人も土地の人も、今ここで協力して生きるという課題に、リアリティを感じたドラマでした。

 25年間も戦場にいて、人はどんな現実に直面するのか?寡黙で冷徹とも言えるケーレンですが、「家族」を得て徐々に変化していく。その内面を少ないセリフと身体の動き、そして目の表情で伝えるミケルセンの演技は素晴らしい。
 さらに、小説タイトルにもなった"アン・バーバラ"の格好良さには惚れ惚れ。また、ロマの子である"アンマイ・ムス"を演じたメリナ・ハグバーグの生き生きとした演技が暗い色調の画面をとびきり明るくしています。彼女が腕を上げて『パンケーキ!』と叫んだシーンはアドリブ(本物のパンケーキが出てきたから)、台本にないセリフでしたが、あまりに素晴らしく美しいと感じて、そのまま映画に使ったという監督ニコライ・アーセルの弁。

 蛇足ですが、家族の食事シーンは何かハリウッドの「古い西部劇」を見るような懐かしさもありました。

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abukum