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パリの豪邸に暮らすシモン(スタニスラス・メラール)。
今日も今日とて、むかしの8ミリフィルムを見ている。
映し出されるのは、うら若き女性アリアーヌ(シルヴィー・テステュー)。
彼女が海辺で女友だちアンドレ(オリヴィア・ボナミー)たちと遊びに興じるさまを写したものだ。
さて、美術館でアリアーヌを見つけたシモンは、彼女の後を尾ける。
車に乗ったアリアーヌ、長い階段を上っていくアリアーヌ・・・
彼女に悟られぬよう尾けるシモンであったが、彼女が入った先はシモンが暮らす豪邸だった・・・
といったところからはじまる物語で、この冒頭のシークエンスは、ヒッチコックの『めまい』やデ・パルマの『殺しのドレス』を彷彿とさせ、ここだけで感嘆せざるを得ません。
ですが物語は、いささかへんちくりんな方向へとすすんで行きます。
豪邸で暮らすシモンと同居しているのは、祖母とメイド、それにアリアーヌ。
アリアーヌは、彼にとっては許嫁といってもよい存在だけれども、正式に婚約している風でもない。
シモンの思い込みか、アリアーヌの繊細さは壊れやすいものらしく、コンパニオンとしてアンドレを彼女の傍に居させている。
そしてシモンは、アリアーヌとアンドレが性別を超えた只ならぬ仲となっていると思い込み、嫉妬と妄執にからめとられていくことになる・・・
うーむ、行き過ぎた嫉妬と妄執なのだが、その根本となるところはズバリとは描かれない。
いや、かなり際どく描かれているのだけれど、わからない観客にはわからない。
シモンの性的嗜好はいびつなもので、どうも成熟した女性に対しては不能のようである。
不能なのだが、これまた厄介で、ネクロフィリア的性向がある。
眠っているアリアーヌに対して欲情し、愛を語るにはアリアーヌに眠ったふりをしてくれ、と懇願せねばならない。
相手を性的に満足できていないという劣等感を含めての嫉妬と妄執なわけ。
そのような行動を、シャンタル・アケルマン監督はワンシーンワンカットでねちっこく魅せていきます。
「魅せて」と書いたが、観ている方としてはかなりの辛抱を強いられる。
シモンの嫉妬と妄執は、アリアーヌに悲劇的最期を迎えさせることになるのだけれど、シモンにとって、それが悲劇かどうかはわからない。
迎えるべくして迎えた結果ともいえる最期のようにも思えます。
面白い!といえる作品ではないのですが、後々まで尾を引く類の映画であることは確かで、数年経てば、また観たいと思うでしょう。
この1本しか観れなかったは残念で、ほかのアケルマン監督作品も非常に気になるところです。
なお、原作はマルセル・プルーストの長編小説『失われた時を求めて』の第5編『囚われの女』。
大胆な現代化と翻案と解説にあり、たしかに、現代に移し替えるには少々無理があるような感じがします。
また、『失われた時を求めて』からの映画化といえば、フォルカー・シュレンドルフ監督『スワンの恋』が思い出されます。