ベルファスト

劇場公開日:

ベルファスト

解説

俳優・監督・舞台演出家として世界的に活躍するケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。ブラナーの出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、激動の時代に翻弄されるベルファストの様子や、困難の中で大人になっていく少年の成長などを、力強いモノクロの映像でつづった。ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディは、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。笑顔と愛に包まれた日常はバディにとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだったバディの世界は突如として悪夢へと変わってしまう。住民すべてが顔なじみで、ひとつの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々の中で、バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られる。アカデミー賞の前哨戦として名高い第46回トロント国際映画祭で最高賞の観客賞を受賞。第94回アカデミー賞でも作品賞、監督賞ほか計7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。

2021年製作/98分/G/イギリス
原題または英題:Belfast
配給:パルコ
劇場公開日:2022年3月25日

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第94回 アカデミー賞(2022年)

受賞

脚本賞 ケネス・ブラナー

ノミネート

作品賞  
監督賞 ケネス・ブラナー
助演男優賞 キアラン・ハインズ
助演女優賞 ジュディ・デンチ
音響賞  
主題歌賞

第79回 ゴールデングローブ賞(2022年)

受賞

最優秀脚本賞 ケネス・ブラナー

ノミネート

最優秀作品賞(ドラマ)  
最優秀助演男優賞 ジェイミー・ドーナン
最優秀助演男優賞 キアラン・ハインズ
最優秀助演女優賞 カトリーナ・バルフ
最優秀監督賞 ケネス・ブラナー
最優秀主題歌賞
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(C)2021 Focus Features, LLC.

映画レビュー

4.0モノクロで描く追想の世界。

2022年4月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
ネタバレ! クリックして本文を読む
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共感した! 4件)
すっかん

4.0「愛着」を体感する、至福の98分

2022年4月11日
iPhoneアプリから投稿

 モノクロの躍動感あるポスタービジュアルに惹かれ、ほとんど前情報なく鑑賞。上映終了間際に、何とか滑り込むことができた。
 冒頭、いきなり街が戦場になり驚く。ついさっきまで戦いごっこで使っていたゴミ箱の蓋が、本当に銃弾から命を守る盾になってしまう。広場にバリケードが敷かれ、自由な行き来さえままならなくなる。しかし、そんな血なまぐさい状況でも、キラキラときらめく日常が息づいている。少年バディは、愛情深い父母や兄、ユーモアのある祖父母に囲まれ、女の子にときめいたり、万引き(せっかく獲得したのにガッカリされたチョコバー…なぜそんなに不人気だったのか?)に巻き込まれたりしながら、驚きと発見に満ちた日々を謳歌する。
 タフで真っ直ぐなお母さんも魅力的だが、とにかく、ジュディ・デンチが素晴らしい。女王まで演じた「あの」ジュディ・デンチなのに、「おばあちゃん」にしか見えない。深く刻まれたシワに、長い人生の物語が潜んでいるようだ。よたよたと歩く仕草さえ味わい深く、一秒たりとも見逃したくない、と思った。そして、「チキ・チキ・バン・バン」を皆で楽しむシーンは、本当に幸せに満ちており、心温まった。
 サンダーバード、マイティ・ソー…とワクワクが詰まった明るいアメリカ文化に夢中になりながらも、故郷を離れようとの提案には身を震わせて泣き、拒むバディ。父母もいったんは思い留まるが、ある事件から事態は急展開する。
 終盤、ふとポルトガルのドキュメンタリー「ヴァンダの部屋」が思い出された。ヴァンダたちは、薬物にまみれたコミュニティに留まっている。彼女たちはそこから「出ていけない」ように見えるが、実際は「出て行かない」のかもしれない。最終的には、ヴァンダとバディ一家は、対照的な事情から故郷を離れることになるが、そこには「生まれ育った場所への愛着」という共通点がある。「こんな場所にいては不幸だ」というのは、よそ者の一方的な思いに過ぎない。どんな物事の見方捉え方にも、絶対はないのだ、と改めて思う。
 また、本作の力強さには、カメラのダイナミックの動きも貢献している。スクリーンいっぱいに、正面からまっすぐ人物の表情を捉えたかと思うと、カメラは彼らを下から見上げ、次にはぐっと上から見下ろし俯瞰する。これは誰の視点なのか。初めはバディなのかと思ったが、人々を広く捉える視点は、彼ではない…。本作の最後に「出て行った者、留まった者、そして命を落とした者へ」と献辞がクレジットされる。もしかすると、カメラの視点は、地に埋められ、天に昇った者たちのものかもしれない、とふと思った。彼らは今も、ベルファストを見守っている。
 幕切れのおばあちゃんのシンプルな言葉が、力強く、温かく、胸を打つ。期待と不安が入り混じる、新生活にふさわしい映画だ。

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共感した! 4件)
cma

4.0紛争の隣に日常がある、昔も今もどこの国でも

2022年3月24日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 フルカラーのベルファストの風景の俯瞰から始まる、かつてのこの街の物語。
かわいらしい主人公の少年が映画館やテレビで様々な当時の作品に夢中になる場面や、彼が監督ケネス・ブラナーの幼少期の投影であることは、「ニュー・シネマ・パラダイス」を連想させる。
 彼のような子供たちが自由に駆け回る小さな地域社会、時に意見の違いがありながらもしっかりと愛情で結ばれた家族の描写には、ブラナー監督の郷土愛、家族愛を強く感じた。

 一方、本作ではそういった故郷の安寧を打ち砕く悲劇も鮮烈に描かれる。プロテスタント武装集団によるカトリック住民への襲撃だ。
 序盤でいきなり激しい暴動シーンが展開され、紛争が生活と隣り合わせにあることが示される。その上で、バディの学校生活や小さな恋、微笑ましい家族団らんの風景、くすっと来るようなやり取りが、「この世界の片隅に」を思わせるシンパシーとのどかさを漂わせつつ進行してゆく。平和な日常の脆さと尊さが際立つ。

 本作で描かれた北アイルランド紛争は、1920年のアイルランド統治法による北アイルランド分離に端を発する。もともとこの地域ではカトリック教徒が多かったが、移民としてプロテスタントが後から大挙して流入し、分離された時点では後者が多数派になっていた。プロテスタントは、カトリックの多いアイルランドとの合併ではなくイギリスとの統一維持を主張し、カトリック側はアイルランドへの合併を望んだ。カトリックのIRAによるテロと、プロテスタント側の報復の応酬が続き、状況は混迷していった。
 バディの祖父は「正しい答えがひとつなら紛争など起きない」と言った。宗教を根本原因とする対立は、複数の「正しさ」の存在が紛争を招く事例の最たるものかも知れない。

 とはいえ、過去の遺恨や自らの正義への執着がない幼いバディの目線で見る世界は、そんな状況にあっても常にどこか明るい。
 カトリックの家の女の子に恋をする。バディの家族は暴動に参加しないが、武装集団の家族(と思われる)の女の子に連れ回されて、言われるままチョコレートや洗剤を盗んでしまう。暴動の最中に律儀に洗剤を返しに行ってからのくだりはちょっと笑った。
 また、キアラン・ハインズとジュデイ・デンチ演じる祖父母の、アイルランドの良心を体現しているようなどっしりとした存在感とウィットのある言葉がよかった。

 全体としては紛争中の日常を描いたブラナー監督幼少期の回顧録という感じで、もし世間が平和な時に観ていたら、遠い国の昔話以上には感じなかったかも知れない。
 しかし、ウクライナ情勢が風雲急を告げる今この作品を受け止めて、原因は違っても暴力的な争いが招く結果は、市井の人々にとってはいつも同じなのだと改めて思う。隣人同士、近い関係のはずの人間同士が信条の違いで争う。穏やかな生活の場が破壊され、自分たちが根付いた土地から引き剥がされるように出て行かざるを得なくなる。
 「優しくて、フェアで、お互いを尊敬し合うこと」バディの父親のシンプルな言葉は、歴史の長い因縁がそこかしこに転がるこの世界では想像以上に複雑でハードルが高く、だからこそ崇高なのだ。

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共感した! 25件)
ニコ

4.0ケネス・ブラナーと“ベルファスト”の街が奏でる珠玉の98分間

2022年3月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

第94回アカデミー賞で脚本賞に輝いた「ベルファスト」だが、筆者は敢えて今作の編集力を特筆すべき点として挙げたい。北アイルランド紛争のど真ん中にいた少年の眼差しだけを描くのでなく、両親や優しい祖父母の視点もとらえている。にもかかわらず、98分間にまとめあげた今作は、ケネス・ブラナーが実際に“分断”を体感したからこそ作り得たと言うことが出来るかもしれない。

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大塚史貴