劇場公開日 2018年11月24日

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恐怖の報酬(1977) : 映画評論・批評

2018年11月13日更新

2018年11月24日よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー

121分絶え間なく続く地獄が、これまでの過小評価を見事なまでにくつがえす

南米の貧民街に逃れてきた、スキャンロン(ロイ・シャイダー)ら4人の前科者たち。そんな彼らが街を脱出するために臨んだのは、微震でも大爆発をおこすニトログリセリン(液状爆薬)を、何百キロも先へと運ぶトラック輸送だった——。

フレンチ・コネクション」(71)そして「エクソシスト」(73)という、ジャンルの革命作を連続して世に出し、映画監督としての名声を得たウィリアム・フリードキン。「恐怖の報酬」(77)は、そのキャリアに致命傷を与えた失敗作として名高い。が、国外公開時に30分近くもカットされたとあっては、内容にも評価にも影響が出て当然だ。

その幻の30分を復活させた【オリジナル完全版】の公開は、不当な過小評価をくつがえす契機となるだろう。それでなくとも本作、アンリ=ジョルジュ・クルーゾーによる古典スリラー「恐怖の報酬」(53)のリメイクという、不利な位置からの戦いを余儀なくされており、リターンマッチのチャンスくらいは与えられてもいい。もっとも監督自身、リメイクではなく原作小説の再構築だと主張しているが、原作の三幕構成を二幕に配置換えし、前半と後半のタッチが均等に分かれているところはクルーゾー版への目配りだ。それが明らかになるのも完全版の醍醐味である。

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だが作品が放つ緊張の度合いは、フリードキン版のほうがはるかに高い。映画はやがて一堂に会する4人のバックストーリーを描き、彼らが撚り縄のように交わり、運命の激流にあらがう過程を、フリードキンが持ち味の実録スタイルで語っていく。そして悪路、大嵐、前方をふさぐ障害物や敵対者などクルーゾー版以上の難関を設置し、ドラマをよりダークに、そしてより過酷なジャングルの淀みへと観る者を潜入させていくのだ。

またこうした過酷なステージの追求は、監督自身の野心ともリンクする。映画作家として成功したフリードキンは安定に甘んじることなく、ドミニカ共和国の密集した森林地での長期撮影を敢行。フランシス・フォード・コッポラが「地獄の黙示録」(79)で、そしてヴェルナー・ヘルツォークが「フィツカラルド」(82)で同じ選択をしたように、あえて悪状況のもとに身を置くことで、このカオスに満ちた快作をモノにしたのだ。そんなプロセス自体が作り手にとって“恐怖の報酬”と呼べるのではないだろうか。

もうこれを失敗作とは言わせない。70年代アメリカ映画の到達点を示す優れたサスペンスの芸術だ。劇場の座席に腰を下ろしたが最後、121分絶え間なく続く地獄があなたを待っている。

尾﨑一男

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