イタリア映画界の奇才、パオロ・ソレンティーノが生まれ故郷のナポリを舞台に自らの少年時代に思いを馳せる。そう来たか!?と画面を凝視していると、やっぱり冒頭からぶっ飛んでいる。ナポリ湾上を陸地に向かって進んでいたカメラが、途中でターンして再び大海原へと方向を変えるのだ。
それが、監督の分身である少年、ファビエットの決断を意味することが次第にわかってくる。また、ファビエットが憧れていた叔母が辿る悲しい運命、互いに深く愛し合っていた両親を襲った突然の出来事、同時代夢中になっていたディエゴ・マラドーナの存在、そして、俳優を目指していた兄から教えられた映画の魅力、等々が、印象的なショットの積み重ねによって描かれる。
親戚一同で出かけたクルージングでの奇妙な静寂、サッカー観戦する部屋に差し込む太陽と心地よい風、高速ボートの船底が海面をかすめる音。それらはソレンティーノが自らの記憶を画面に再現したものだが、観客もある思いに駆られる。記憶とは概ねあやふやで、時々リアルなものだと。
だから、本作はソレンティーノが説明しているように、人々と思い出を共有するための作品。そして、旅立つファビエットを通して今の若者たちを勇気づけるための作品。繰り出されるショットはとんがっていても、監督が差し出すHandは温かいのだ。